2月27日のFAカップ5回戦マンチェスター・シティ戦でルートン・タウン加入後初出場を果たすと、5日後の第27節アストンビラ戦でついにプレミアリーグデビューを飾った橋岡大樹。残留を争う“ハッターズ”はなぜ冬の移籍市場で日本代表DFに白羽の矢を立て、1月30日の獲得発表からその一員としてピッチに送り届けるまでに約1カ月もの時間を要したのか?日本からルートンを追い続けるHatters Japan氏に理由を探ってもらった。
初報からわずか2日で加入が確実に
特出すべきビッグディールが影を潜めた今冬の移籍市場も終盤、1月27日土曜の朝である。ベルギーにあるリンブルフ州の地元紙『HET BELANG VAN LIMBURG』が、橋岡大樹にいくつかの欧州クラブが注目しているという情報を流した。リーズ(イングランド2部)、ヘンク(ベルギー1部)も触手を伸ばしているものの、橋岡本人としては夢のプレミアリーグを戦っているルートンを優先するという報道。彼をはじめとした日本人選手が多く所属するシント=トロイデンが本拠を置き、オランダとの国境に隣接するベルギー北東部から届いたニュースに、約700km離れたルートンサポーターはどうリアクションを取ればいいのかわからない状況だった。
橋岡とは一体何者なのか。ファンベースの間でプレー動画が出回ると、少しずつ彼のクオリティが理解されたようだが、「右サイドのフルバックだって」「3バックもできる」――その程度の感想だっただろう。「日本の(現ノリッチで2017-19に在籍した)ジャック・ステイシーってこと?」とコメントするサポーターもいたぐらい、橋岡に関する知識は乏しかった。海外紙が報じただけの内容にも半信半疑で、みなとりあえずニュースにグッドボタンを押したけど、この移籍がルートンにとってプラスなのかどうかよくわからない――そんな雰囲気だった翌28日、今度は『Telegraph』紙のマイク・マクグレース記者が現地時間正午にSNSを更新。
移籍金200万ポンドで交渉中と詳細が伝えられ、一気に情報の確度が上がる。追って1時間後には『The Athletic』上でリーズ番記者のフィル・ヘイも橋岡のルートン加入が迫ると報じ、同じ日本人である筆者のもとにも問い合わせが数件来るようになった。同日深夜、移籍専門記者のファブリツィオ・ロマーノが、月曜に橋岡がメディカルテストを受けるために渡英と報道。第一報からわずか2日で日本代表DFがルートンの一員になることがほぼ確実となった。
昇格組のルートンは2024年に入って健闘を見せていた。新年のプレミアリーグ初戦、敵地ターフ・ムーアでのバーンリー戦(21節)では敗戦濃厚な92分に同点ゴールを決め、FAカップ3回戦でもボルトンとのリプレイを制す。翌週の4回戦、エバートン戦でも劇的なラストプレーでのゴールでベスト16に滑り込みに成功。迎えた1月30日、ミッドウィークの本拠ケニル・ワース・ロードでの22節ブライトン戦のキックオフ2時間前に橋岡の正式加入がリリースされ、晴れて「ハシ」は 日本人選手として初めて“ハッターズ”の一員となった。
試合前にはトム・ロッキャーがグリーティング、前半を終えて3-0――そんな中で行われたハーフタイムに橋岡本人が登場して挨拶。スタジアムの外で花火まで上がり、クラブに関わるすべての人たちが満面の笑みで彼を歓迎した。現地に駆けつけたファンはプレミアリーグ残留を目指すチームに幸運をもたらしてくれるラッキーチャームのように思っただろう。とにかくお披露目の場としては、これ以上ない最高の舞台だった。
補強は必然だったDFラインの事情
ルートンの補強戦略はチーフ・リクルートメント・オフィサーであるミック・ハーフォードが主導しているが、まず確認するのが性格、気質といったメンタリティだ。「チームのために戦えるか」「ロッカールームで腐ったリンゴになり得ないか」――そうした精神面をプレー面と並行して評価する。この性格面でのバーは日本人選手から見れば低く、その代表チームでもムードメイカーとしても知られる橋岡はまったく問題なかっただろう。
では、そもそもなぜルートンが彼をターゲットにしたのか。……
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Hatters Japan
Luton Town FC Fan Tokyo Japan。ルートンタウンFCを東京から応援しています。 LUTON TOWN Supporters’ Trust International Hatters Supporters Group公認。