サッカー選手のキャリアは何があるか分からない。チームメイトが世界的スターに選手へと上り詰める一方で、サッカーを諦めてネズミを捕る害獣駆除の仕事に就く者もいる。
稀代の点取り屋とも一緒にプレー
オランダ北部のフリースラント州出身のメインダート・ポストマ(52歳)は遅咲きのウィンガーだった。フェーレンヘーンでプロの道に進んだMFポストマは、1997-98シーズンにはオランダ1部のエールディビジでもピッチに立った。のちにマンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリーでゴールを量産する元オランダ代表FWルート・ファン・ニステルローイも同時期にデン・ボスから加入。ポストマは、ファン・ニステルローイとともにリーグ戦3試合に出場した。
稀代の点取り屋は1年でPSVに引き抜かれてエールディビジの得点王に輝き、さらにイングランドへと巣立っていったが、ポストマが世界へと羽ばたくことは一度もなかった。下部リーグのフェーンダムやカンブールに移籍した後、現役キャリアに別れを告げたポストマは、20年近く害獣駆除の仕事に従事しているのだ。
「自分は遅咲きだった。プロになったのは24歳の時なんだ」とポストマはオランダ誌『ELF Voetbal』でキャリアを振り返った。3部のクラブでアマチュア選手としてプレーしていたポストマは、1996-97シーズンに同クラブで活躍し、ブンデスリーガのクラブからも誘いを受けたという。「ドイツのブレーメンから誘いがあり、練習に参加した。プレー内容は評価されたが、24歳の無名選手を獲得するのはリスクが高すぎると判断された。その後、ヘーレンフェーンに誘われたんだ。そして生活費とちょっとした給料が出る契約を結んだのさ」
プロの世界が合わず、ネズミを追う仕事に従事
こうして24歳にしてプロの道を歩み始めたポストマは、ビール配達の仕事を辞めてサッカーに専念することに。2カ月後には見事にプロ契約を勝ち取った。そして背番号11を背負ってフィテッセ戦でデビューを果たすも、チームは1-3で負けており、ポストマはハーフタイムに交代させられた。結局、あまり出番をもらえなかったポストマは、ローン移籍の後カンブールへと移籍した。2部リーグでは出場機会をもらえていたが、のどかなフリースラント地方で育ったポストマにはプロの世界が合わなかったという。
28歳で選手を辞めて地元に戻ったポストマは、自然が好きだったこともあり、自然界を荒らす外来種の駆除で生計を立てるようになった。彼の地元であるフリースラント地方では、体長30cm以上になるネズミ科の「マスクラット」は外来種として駆除の対象となっている。1年間で1立方メートルもの土を掘るマスクラットは堤防や土手を破壊する恐れがあるため駆除が必要だというが、簡単に捕まえることはできない。数日かけて1匹捕まえられるかどうかだという。それでもポストマは、誰かがやらなければいけない仕事に使命感を覚え、20年間もネズミを追いかけているという。
もう少し若い年齢でスカウトの目に留まっていれば、もしかするとブンデスリーガのピッチに立っていたのかもしれない。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。