2月11日にアジアカップ2024の決勝が行われた。決勝のカードは、2大会連続の決勝に進出した開催国カタールと、史上初の決勝進出を果たしたヨルダン。そのヨルダンを牽引する背番号10が、フランス・リーグ1のモンペリエに所属するFWムサ・アル・タマリだ。
韓国を下した圧巻の60mドリブル
グループステージを3位で突破し、ノックアウトステージではイラク、タジキスタンを破ったヨルダンは、初の準決勝ではグループステージで2-2と引き分けた韓国との再戦に挑んだ。
スコアレスで折り返し迎えた52分。ヨルダンが韓国のパスコースを切ってパク・ソンウの横パスを誘うと、右ウイングのアル・タマリが鋭い出足でインターセプト。そのままゴール前までボールを運ぶと、フリーになったFWヤザン・アルナイマトにアシストを決めて先制ゴールを演出した。
圧巻だったのは66分。自陣で韓国のイ・ガンインとファン・インボムのパス交換からボールを奪ったアル・タマリは、自らドリブルで60mを独走すると、バイタルエリアでグラウンダーの左足シュート。ボールは左隅に突き刺さり、ダメ押しのゴールとなった。アル・タマリは1ゴール1アシストの活躍で、ヨルダンを史上初の決勝へと導いた。
高速ドリブルを得意とするレフティーということで、若手時代から「ヨルダンのメッシ」の呼び声が高かったアル・タマリ。26歳になり、アジア屈指のアタッカーとしてアジアカップで脚光を浴びた。
キプロス、ベルギーで台頭
出身はヨルダンの首都アンマン。2016年に地元のシャバブ・アル・オルドゥンの下部組織から昇格したアル・タマリは、10代からすでに脚光を浴びているアタッカーであり、19歳でA代表デビューを果たしている。国内で2シーズン過ごし、2018年に移籍金40万ユーロでキプロスの名門アポエルへ移籍した。2018-19シーズンは23試合9得点の活躍でリーグ優勝に貢献。自身はキプロスリーグのMVPに選出された。
2020年にはベルギーリーグのOHルーベン(以下OHL)へ移籍。当時ヨルダン代表監督を務めていたベルギー人のビタル・ボルケルマンスは競争力の激しいリーグでのプレーをヨルダン代表選手に求めており、就任時にレギュラーとして抜擢したアル・タマリにベルギーでのプレーを推奨。ボルケルマンスに応えるべく、OHLが移籍金110万ユーロで獲得することになった。
1年目では途中出場が多く21試合1得点で終了したが、2年目は右WGのレギュラーに定着。指揮官のマルク・ブレイスは「キプロスにいる頃から注目しており、当時監督として率いていたベールスホットやシントトロイデンに迎えたいと思っていた」とOHLの公式サイトで語ったことがあった。
OHLで指導することになった後のインタビューでは「アル・タマリは素質に恵まれており、スピードと技術で相手のDFを破る力を持っている。ベルギーリーグ最速のアタッカーの1人だ。また、ボールを失った後の反応もよく、常に献身的で、一緒に仕事をする前の印象以上に素晴らしいチームプレーヤーだ」と高く評価していた。
OHLでは所属3年間で86試合10得点の成績を残し、2023年夏にはヨルダン人としては初となるフランス・リーグ1のモンペリエに移籍した。その後もレギュラーとして活躍しており、第2節のリヨン戦では2得点を挙げる活躍を見せている。
初のW杯出場へカギを握る
アジアカップでの活躍により、ヨルダン史上最高の選手としての呼び声が高いアル・タマリ。サウジアラビア、シリア、イラクなどの近隣諸国から大きく遅れを取っていたヨルダンにとって、中東諸国の選手としては珍しく欧州の一線で活躍する彼は、まさにチームの躍進を象徴するアイコンだ。アラブ諸国では、同じく快速と左足を武器にするモハメド・サラーと重ねて期待するファンも多い。
アジアカップ終了後にはW杯アジア予選も行われる。昨年8月からヨルダンを率いるモロッコ人のフセイン・アモータ監督は、2022年W杯でアフリカ勢初のベスト4に進出したモロッコ代表のコーチングスタッフとして貢献している。ピッチ内外での素晴らしい成長をし続けているヨルダンは、アジアからの出場枠が増えた今、出場が期待されるチームとして期待がかかっている。
Photo: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。