準々決勝で涙を呑んだ女子W杯から1カ月後の昨年9月、全5試合に出場して2ゴールを挙げた日本代表の背番号9、植木理子のウェストハム・ウィメン移籍が発表された。アカデミー時代の2012年から所属する日テレ・東京ヴェルディベレーザを離れ、初の海外挑戦を選んだ昨季WEリーグ得点王(19試合14得点)は、イングランドの地でどのような成長を遂げているのか。ここまで公式戦13試合3得点、なでしこジャパンのチームメイトでもある清水梨沙、林穂之香(いずれも2022年夏に加入)とともに“異国”で奮闘中の24歳を、ロンドン在住の山中忍氏が現地で取材した。
“らしさ”を披露しにくい「ハードワーク集団」の一員として
1月14日の女子FAカップ4回戦、“なでしこトリオ”が先発したウェストハム・ウィメンは、延長戦でチェルシー・ウィメンに敗れた(●3-1)。内容的には、敵地で格上を相手に善戦したと言える。チェルシーは、ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)とFAカップの昨季2冠王。今季のリーグ順位も、10試合を消化して11位(勝ち点5)の自軍に対して、向こうは首位(同25)。にもかかわらず、ボールは支配されても決定機はなかなか作らせず、70分までは虎の子の1点リードを守っていた。チーム力の差を得点差に反映されたのは、延長戦前半の101分以降のことだった。
この“惜敗”の中では、ともに120分間をこなしたDF清水梨沙とMF林穂之香を含む、[3-5-2]の後方2列の奮闘と同等以上に、前線で80分間ピッチに立ったFW植木理子の姿が今後への期待を感じさせた。
ウェストハムのレイアン・スキナー監督は「(日本のピッチとは)かなり違う環境なので、少し時間が必要になっても当然でしょう」と、植木が置かれた状況を説明している。ただし、だから現状には目を瞑るというネガティブな意味ではない。自身も昨年7月に就任した新監督は、その翌々月に日テレ・東京ヴェルディベレーザから獲得された新戦力について、「素晴らしい適応ぶりで、プラス材料の1つ」とも言っているのだ。試合後の会見で、移籍後4カ月の評価を尋ねたこの日本人に対するリップサービスでないことは、他ならぬ植木自身のプレーからも理解できた。
10月の今季WSL開幕で正式に始まった海外初挑戦が、決して易しい道のりでなかったことは事実だ。移籍後の初ゴールは早かった。ヘディングでネットを揺らした第2節ブライトン・ウィメン戦(○0-2)、植木は自らのミドルシュートで先制点のきっかけを生んでもいた。だが指揮官が触れたように、イングランドの女子トップリーグでは「かなりタフなフィジカルバトルや、異なる戦術面での適応」を常に強いられる。翌節からウィンターブレイク直前の第10節まで、リーグ戦8試合で先発を続けたがゴールの上乗せは計2点止まり。白星が途絶えたチームの順位も全12チームの下から2番目へと落ちていった。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。