欧州主要リーグとJリーグのウインドウが重なり、選手の入退団や移籍金の話題で持ちきりとなる1月。この賑やかな時期に、誰もが手軽にスマホから情報を発信・拡散できるSNS上で次々と現れているのが、いわゆる「噂アカウント」だ。根拠のない移籍ニュースを流してインプレッション数を稼いでいく彼らと、サッカーファンはどう付き合っていくべきか。Xからの論客であるtkq氏と考えてみよう。
「我われは世界をその実態ではなく、願望というレンズを通して見るのである」(ウォルター・リップマン/『世論』(岩波文庫))
みなさま、あけましておめでとうございます。footballistaが完全にWeb化となるそうで、そちらもおめでとうございます。ついぞ本誌記事の依頼はありませんでしたが、紙媒体に永久に私のアレな文章を残してしまうことを考えると、まさに英断と言うほかはありません。
さて、みなさん、新年早々踊ってますか? と、名作映画『Shall we ダンス?』のようなノリになってしまいましたが、もちろん踊るのは社交ダンスではありません。特にこの時期に我われサッカーファンが踊るといったら、移籍情報に決まっているじゃないですか。
シーズン中は常に試合を見ていることもあり、「左利きのCBが欲しい」「左利きの速くて強いCBが欲しい」「左利きで高くて速くて強くて球出しが上手いCBが欲しい」「アーリング・ハーランドもくれ」などと応援するチームの弱点を考えた補強案が頭の中をよぎっていることもあるのですが、やはりそれが一気に噂となって出てくるのは冬と夏ですよね。この時期は欧州主要リーグとJリーグの移籍期間が被っていることもあり、様々な話が出てきます。
そこからネットで提供される移籍情報は、ピンからキリまで。信頼度の高い情報源といえばファブリツィオ・ロマーノのように、かなり確度の高いプロの記者たちがまず挙がります。そして大手放送局や地元新聞などの「これに出たらほぼ確定」というメディアも存在しますね。
「オーウェン獲得」騒動から学べること
ただし、ネットに出てくる移籍情報はそんなに正確なものばかりではありません。根も葉もない噂が瞬く間に広がり、真偽の定かではない話が飛び交います。その混乱に拍車をかけるのは、X(旧Twitter)上に跋扈する、いわゆる「噂アカウント」の存在です。みなさんも「噂 移籍」「Jリーグ 移籍」などという名前を一度は見たことがあるんじゃないでしょうか。そのアカウントたちは日々、「キリアン・エムバペがレアル・マドリーへ今夏移籍」「ダビド・デ・ヘア、ヴィッセル神戸の獲得が決定的」「モハメド・サラー、ユース時代を過ごしたジェフユナイテッド千葉に復帰」などの思いつきのような情報を、ビッグ・サムのロングボール戦術のように無造作に放り込んでいくのです。
こんな信憑性のないものを誰が信じるんだ、と思っていたんですけど、これが結構「いいね」をされたり引用されたりと反応があるんですよね。しかもリポストするだけでなく、その投稿をもとに喧々諤々の議論をしていたりもするのです。そういうやり取りを見ていると、頭の中に「大山鳴動して鼠一匹」「捕らぬトニーの皮算用」という言葉が浮かんだりもします。……
Profile
tkq
世界ロングボール学会(WLBS)日本支部正会員。Jリーグの始まりとともに自我が芽生え、カントナキックとファウラーの薬物吸引パフォーマンスに魅了されて海外サッカーも見るように。たぶん前世でものすごく悪いことをしたので(魔女を10人くらい教会に引き渡したとか)、応援しているチームがJ2に約10年間幽閉されています。一晩パブで飲み明かした酔っ払いが明け方にレシートの裏に書いた詩のような文章を生み出そうと日々努力中です。【note】https://note.mu/tkq