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FIFPROアジア支部代表が解説。新代理人規則導入の背景にあるFIFAの狙い

2024.01.14

昨年10月から適用されているFIFA新代理人規則。現行ルールからの変更点としては試験制度の再導入や手数料の規制が注目を集めているが、真の狙いはむしろ選手の移籍、契約を支配する「不当な影響力」を抑制することにある。その新たなアプローチをFIFPRO(国際プロサッカー選手会)のアジア支部代表を務め、FIFAのステークホルダーとしてフットボールエコノミーの在り方を議論している弁護士の山崎卓也氏に解説してもらった。

※『フットボリスタ第98号』より掲載。

 もうすでに多くの報道を通じて、代理人・エージェントについて、試験制度が再導入されたことや、手数料規制が導入されたことは日本でも広く知られており、後者については欧州を中心に代理人の団体からその規制の違法性をめぐって法的手段が取られるなど様々な動きが進行中である。

 しかし、今回のFIFAの新しいFootball Agent Regulations(以下、FIFA新代理人規則)においては、そうした試験制度の再導入や手数料規制だけではなく、代理人ビジネスが選手の移籍、契約に大きな影響を与える「影響力のビジネス」であることに根ざした、より踏み込んだ新しい規制が取り入れられており、その点を理解することは移籍や契約をめぐるフットボールビジネスの現在地を理解する上で不可欠と言える。すなわち、これまでのフットボールビジネスの歴史の中では、代理人がその影響力を「不当な」レベルで行使することによって、歪んだ移籍や契約が行われてきた経緯があり、今回の新代理人規制はそうした実務をあらためる重要な役割も期待されているのである。

 本稿では、そうしたFIFA新代理人規制の背景にある狙いについて、主に利益相反、利益供与、情報開示に関する規制にフォーカスして考察することとしたい。

米国4大リーグではありえないクラブエージェント実務

 フットボールビジネスにおける代理人ビジネスの最大の特徴は、クラブエージェントが広く実務として定着していることにあると言える。つまり選手を代理するだけでなく、選手の移籍において移籍元や移籍先クラブの代理をするビジネスも広く行われており、ここに、米国の4大スポーツリーグ(MLB、NFL、NBA、NHL)の代理人ビジネスとの大きな違いがある。米国のこれらのリーグでは、選手会が代理人を登録・管理する役割を果たしており、選手会に登録された代理人が、クラブ・球団側との金銭的利害関係を持つことを厳格に規制している。選手の契約、移籍におけるクラブ側の代理が禁止されることはもちろんのこと、それ以外に何らかの金銭的利害関係を持つことも厳格に禁止されているのである。

 実際、2022年に米国MLBの選手会は大手エージェントWME(Endeavorグループ)が行ったマイナーリーグ球団の買収に対して利益相反であると警告し、制裁を科す姿勢を示すなど厳格な対応を行っている(対照的にフットボール界では、代理人が自ら支配権を持つクラブに選手を移籍させることもしばしば行われ、しかも比較的最近までは選手の保有権を代理人が持つこと ―― 第三者保有 ―― さえ認められていた)。

 このように、世界屈指のプロスポーツリーグを多く持つ「エージェント大国」である米国では、エージェントはあくまで「選手の最大利益を実現するプロフェッショナル」としての位置づけで規制が行われており、その報酬も選手から支払われることが当然となっているが、グローバル規模、特に欧州と南米で様々な選手の取引が行われてきたフットボールの世界では、世界中から優れた選手を発掘したいクラブのための「人材紹介」を担う役割として代理人が活動してきた経緯もあり、そのような中では、むしろ求職者(選手)保護という観点から、選手からは手数料を取るべきでない(手数料を払うのはクラブ)というアプローチを取る国も欧州には存在してきた。

 これが「選手代理人」でありながら、クラブから手数料を得るケース、あるいは選手とクラブを両方代理し、両方から手数料を得るケースのような米国4大リーグではあり得ない実務が、フットボール界で定着してきた理由であり、こうした実務により、様々な「利益相反」的事例が生み出されるようになった。

利益相反、利益供与、情報開示に対する規制強化

 個々の選手とクラブを比べてどちらに財力があるかといえば、一般的には後者であることから、代理人はどうしてもビジネス的には「ビッグクライアント」であるクラブ側に寄りがちになる。そして多くの有力選手を抱えることによってクラブへの影響力を強くし、そのことでクラブにも重宝されたり、その結果、特定のクラブから優遇的な取り扱いを受けたり、ひいてはクラブに対する支配的地位を取得するに至ることもあり、「選手代理人」はこうした活動を通じて「選手のための」代理人、つまり純粋に100%選手の利益を実現する存在とはなりにくい傾向が生まれることになる。……

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フットボリスタ第98号

Profile

山崎 卓也

1997年の弁護士登録後、2001年にField-R法律事務所を設立し、スポーツ、エンターテインメント業界に関する法務を主な取扱分野として活動。現在、ロンドンを本拠とし、スポーツ仲裁裁判所(CAS)仲裁人 、国際プロサッカー選手会( FIFPRO)アジア支部代表、世界選手会(World Players)理事、日本スポーツ法学会理事、スポーツビジネスアカデミー(SBA)理事、英国スポーツ法サイト『LawInSport』編集委員、フランスのサッカー法サイト『Football Legal』学術委員などを務める。主な著書に『Sports Law in Japan』(Kluwer Law International)など。

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