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ESL再燃にとどまらないECJ判決の余波(後編)。ACLやアジア杯の行方は?日本に託されたサッカー界の未来を占う

2024.01.11

CLの代替コンペティションとして構想中の欧州スーパーリーグ(ESL)が再燃する火種となった欧州司法裁判所の判決。国際大会の新設やその参加を禁じていたFIFAとUEFAがEU法違反で敗訴となった上で、ESL主催のA22が当初の20チームから3階層の64チームに出場枠を拡大した新形式を発表したものの、即座に大半のクラブが反対を表明している。ゆえに実現の見込みこそ薄いままだが、その余波はCLとESLだけにとどまらない。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)やアジアカップ、さらには日本にまで及ぶサッカー界全体のガバナンスそのものに与えた衝撃を、FIFPRO(国際プロサッカー選手会)アジア支部代表も務める山崎卓也弁護士が前後編に分けて解説する。

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日本サッカー界にとっては絶好機?

 前編で解説したように、今回の判決はA22の言葉を借りるならFIFAやUEFAの独占の終焉であり、日本のサッカー関係者を含む、すべてのサッカー界のステークホルダーが、今後の「新しい国際大会のあり方」を提案し、交渉していく道を開いたものといえる。

 ということは、日本サッカー協会、Jリーグ、WEリーグ、日本プロサッカー選手会などを中心にファンも含めて、何がベストな国際大会、国際マッチカレンダーなのかを積極的に考え、提案し、実現に向けての交渉、関係者との調整を行っていく未来も開けたといえる。

 とかく日本を含むアジアの関係者は、FIFAやAFC(アジアサッカー連盟)が行う様々な決定について、交渉することなく「仕方ない」ものとして受け入れがちであるが、欧州では歴史的にビッグクラブなど各ステークホルダーがFIFAやUEFAに継続的にプレッシャーをかけてきた歴史があり、今回の訴訟もまさにその一環である。その意味ではいよいよ日本、アジアの関係者にも未来の国際サッカー界のあり方について積極的に考え、影響を及ぼしていくべき時代が訪れたともいえる。

 折しも、Jリーグは秋春制へのシーズン移行を決め、また欧州に拠点を設立する構想も公にしているというタイミングにあり、日本の関係者にとってどのような国際大会のあり方がベストなのかを考えるという意味では、まさに絶好のタイミングでこの判決が下されたとも言える。

 今後の国際大会のあり方を考える上では、試合数や大会フォーマットといった点だけでなく、これまでサッカー界では不動の前提とされていた、地域の限定の有無も論点となろう。例えばFIFA主催のW杯出場権を得るためには、日本はAFC主催のアジア地域予選を勝ち進む必要があるのが現状だが、これを地域にとらわれずに「国際ネーションズリーグ」のような地域をまたいだ昇降格のあるリーグを作って行う(例えば日本はFIFAランクの近いメキシコなどと同じグループで戦うなど)といったアイディア(ちなみにラグビーでは国際ネーションズリーグ的な大会の導入がすでに議論されている)、クラブW杯の出場権もACL(AFCチャンピオンズリーグ)ではなく地域をまたいだ予選にしたり、各国リーグのランキングをもとにした枠を決めて強豪リーグについては上位チームに自動的に出場権を与えるなどのアイディアも考えられる。

 今まではこうしたリーグや選手でこうしたアイディアを出したとしても、各国のサッカー協会を通さずにFIFAや大陸連盟に意見する方法がなく、実現可能性に乏しかったが、今回の判決によりあらゆるサッカー関係者に、新しい国際大会、リーグを申請する機会が生まれ、FIFAや大陸連盟は「透明かつ客観的、非差別的で均衡のとれた基準」なく、それを拒否することができないことになる。となると「労使」であるリーグ、選手が、主導権を持って新しい国際大会を提案することができ、しかもその大会をリーグ、選手主導で主催して「放映権などの商業的権利」をFIFAや大陸連盟に渡さない形も可能となる。そもそも他のスポーツでは、野球のWBCのように、リーグと選手会が主催している国際大会も存在しており(MLBとMLB選手会が共同で作ったWBCインクという会社が主催していて、国際競技団体であるWBSCはそれを「公認」しているに過ぎない)、サッカー界でも、リーグや選手が主導して国際大会を行う時代が到来する可能性もある。

AFC主催大会に代わる新方式の提案例

 今回の判決は欧州地域に関するものではあるものの、実際上のインパクトはUEFA以外の、AFCを含むすべての大陸連盟に及ぶ可能性が高い(ボスマン判決がそうであったように)。

 だとすると、例えば――

・現状のACL(来季からの新フォーマットを含む)は、ほとんどのクラブが赤字を出しながら参加している(AFCから支給される賞金や旅費補助金の金額が少ない)ことを考えると、Jクラブはアジアのみならず、例えば欧州や南米を含む他地域のリーグと組んでより収益性の高い新しい国際大会を作り、そちらに参加した方が良いのではないか。あるいはアジアでやるとしても、より収益効率の高いフォーマットを考えて、より限定されたクラブでやる方が良いのではないか……

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Profile

山崎 卓也

1997年の弁護士登録後、2001年にField-R法律事務所を設立し、スポーツ、エンターテインメント業界に関する法務を主な取扱分野として活動。現在、ロンドンを本拠とし、スポーツ仲裁裁判所(CAS)仲裁人 、国際プロサッカー選手会( FIFPRO)アジア支部代表、世界選手会(World Players)理事、日本スポーツ法学会理事、スポーツビジネスアカデミー(SBA)理事、英国スポーツ法サイト『LawInSport』編集委員、フランスのサッカー法サイト『Football Legal』学術委員などを務める。主な著書に『Sports Law in Japan』(Kluwer Law International)など。

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