今冬の移籍市場で最も注目を集めている選手は“変わり者”だという。
1月の移籍市場が開き、どのクラブも積極的に補強を進めている。毎年、大金が飛び交うプレミアリーグは今冬も忙しそうだ。中でも注目を集めているのが、クリスタルパレスに所属するウィンガー、マイケル・オリーセ(22歳)だ。
得意のドリブルで局面を打開してチャンスを演出し、高精度の左足で直接FKまで蹴り込んでしまうアタッカーには、プレミアの名だたるクラブが目を光らせている。報道によると、新たな投資家を見つけたマンチェスター・ユナイテッドが獲得に乗り出しているそうだが、チェルシー、マンチェスター・シティ、アーセナル、リバプールといったクラブも獲得に興味を示しており、引く手あまたといったところだ。
本人はアーセナル移籍を希望しているとも言われている。ロンドン生まれのオリーセは子どもの頃にアーセナルの下部組織の練習にも参加しており、同クラブのファンだという。だが、彼が本格的にアカデミーに所属したのは同じロンドンのチェルシー。そこからマンチェスターCのユースチームを経て、イングランド2部のレディングで活躍するようになり、2021年夏にクリスタルパレスに引き抜かれた。その後はプレミアリーグで結果を残しており、今季はハムストリングのケガで出遅れたものの、11月に復帰してからはプレミア9試合で5ゴール1アシストという圧巻のパフォーマンスを披露している。
ゴールを決めても喜ばない
最近、箇所は違うが再びハムストリングを痛めたことで1カ月ほど離脱するようだが、その間も移籍の噂が止むことはない。そんな移籍市場の注目銘柄は、変わり者としても知られる。彼の変人ぶりに注目が集まったのは1年前のことだ。
U-21フランス代表経験を持つオリーセは、昨年1月のマンチェスターU戦で、後半追加タイムに劇的な直接FKを叩き込んでチームを救った。だが、同僚が同点ゴールに歓喜するなかで彼は下を向いて軽く拳を握る程度。ほとんど喜ばなかったのだ。
別にマンチェスターUに愛着があったわけではない。単に喜ばないだけ、それがオリーセという男なのだ。
「少し変わり者なのさ。ゴールを決めても喜ばないことがあるからね」とレディング時代のチームメイトはスポーツ専門メディア『The Athletic』で証言したことがある。同選手によると、オリーセは練習中のリフティング勝負などでは叫んで喜ぶこともあるが、公式戦でゴールを決めても顔色一つ変えないことがある。SNSでも急にチームメイトのフォローを外すなど、とにかく他の人とは「違う」そうだ。
最悪のインタビュー?
極め付きは2022年11月のインタビューだ。ウェストハム戦で終了間際に決勝ゴールを決めたオリーセは、試合後のインタビューで「振り返ってみて」と聞かれると「振り返るって何? ゴール?」と確認した後で「ザハがパスをくれ、シュート、ゴール」とつぶやいた。インタビュアーが慌てて「簡潔でいいね。でも、決勝点だよね。ゴールが決まった瞬間の気分は?」と聞き直すと「気分は良かった」と一言だけのアンサー。それでもインタビュアーが「試合を振り返って勝利は妥当?」と食らいつくと「だね」とだけ答えた。
それがネットで拡散されて大きな話題となった。「最悪のインタビュー?」といった表題で切り抜き動画が出回り、賛否を呼んだのである。無論、このインタビューには前後があり、チームパフォーマンスについて「すべて良かった。戦う気持ち、パス回し、プレスなど全体的に良かった」など、聞かれた質問にはすべて答えた。最後にはチームメイトのエベレチ・エゼが隣に来たことで「君はエゼのインタビューの邪魔しようとしたんでしょ!」とインタビュアーが気遣って質問すると、オリーセもようやく表情を崩して「ちょっとだけ。ちょっとだけね」と笑ってみせた。
当時チームを率いていたパトリック・ビエラ監督も「これが彼の性格なんだ。別にふざけているわけではない。これがマイケルなんだ」と、決してメディア対応を軽視したわけではないと同選手を擁護していた。
こんな変わった一面もあるオリーセだが、実力は折り紙付き。ビッグクラブがこぞって獲得に動くのも納得だ。果たして今冬の少し変わった注目銘柄は、果たしてどのクラブを選ぶのか? オリーセの決断に注目したい。
ちなみに、彼の弟、リチャード・オリーセ(19歳)は現在チェルシーのU-21チームに在籍している。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。