モッタ率いるボローニャの「モダンで手堅い」戦術。CBが縦に並ぶビルドアップの仕組みを解き明かす
セリエAの2023-24シーズン前半戦は欧州カップ戦出場権争いが大混戦。第19節を一足先に終え、ナポリ、ラツィオ、アタランタ、ローマら常連組を上回るEL出場圏内の暫定5位につけているのは長年、下位から中位が定位置だったはずのボローニャだ。コッパ・イタリアでもラウンド16で早くもインテルの3連覇を阻止した“ロッソブル”(赤と青)が、就任2年目を迎えたチアゴ・モッタ監督の下で躍進を遂げている戦術的理由とは。イタリア在住の片野道郎氏に教えてもらおう。
「ゲーム支配」と「即時奪回」の両立による安定感
セリエAの今シーズン前半戦最大のサプライズは?と問われてまず挙げるべきは、やはりボローニャの躍進だろう。
イタリア半島の付け根に位置する人口40万人の中都市に本拠を置くボローニャは、良い意味でも悪い意味でも典型的な「中堅クラブ」である。ここ15年でセリエB降格は1年のみ(2014-15)と安定してセリエA定着を果たしてはいるものの、残留争いに巻き込まれるほど弱くはないが、欧州カップ戦出場権争いに絡むほど強くもないという煮え切らない立ち位置から動けないまま、2桁順位前半の「ぬるま湯ゾーン」が定位置となって久しい。
ところが今シーズンは、開幕から安定した戦いで勝ち点を積み重ねて尻上がりに順位を上げ、ナポリ、ローマ、ラツィオ、アタランタといった格上を尻目にトップ5に食い込んで前半戦を終えようとしているのだ。
前節の18節時点で21得点(リーグ10位)、15失点(リーグ3位)、得失点差+6(リーグ8位)という数字が示すように、数多くの決定機を作りゴールを量産するタイプではなく、むしろバランス型と呼ぶべきチーム。注目すべきはその「バランス」が、重心を高く保って自らボールを保持し、主導権を握ってゲームを進める能動的な姿勢を通じて実現されている点にある。
それを象徴するのが、平均55.9%という高いボール支配率(リーグ4位)を保ちながら、プレス強度を示す指標であるPPDA(守備アクション1回あたりに許したパス本数)もリーグ3位(11.6)を記録しているというデータ。「ポゼッションによるゲーム支配」と「ゲーゲンプレッシングによる即時奪回」を両立させた、きわめてモダンなスタイルを持っていることがわかる。
スタイル的に近いのはセリエAならフィオレンティーナ、ナポリだが、「ポゼッション&プレッシング」という同じ志向性を持ちながら、この2チームと比べると得点、失点がともに少なく、ロースコアの試合が多い点が大きな違い。ライバルに先行して19節を消化している現時点で8勝8分3敗と、引き分けが多く負けが少ない戦績が示す通り、ポゼッションでゲームをコントロールする意識を強く持ちつつも、リスクを冒して強引にゴールを奪いに行くことを避けるバランス重視の振る舞いを取っているところが、このチームならではの特徴だ。ここまでの躍進も、ユベントス、インテル、ナポリからしっかり引き分けをもぎ取るなど、格上とも互角に渡り合える安定感の高さがもたらしたものだと言えるだろう。
5年前は誤解を招いたが…[2-7-2]からたどるモッタ監督の哲学
チームを率いるのは、41歳のチアゴ・モッタ。2000年代から10年代にかけてバルセロナ、インテル、パリSG、そしてイタリア代表でテクニカルなセントラルMFとして活躍したその姿を覚えている読者は少なくないだろう。18年に現役を退くとすぐにパリSGのU-U19監督として指導者の道に入り、翌19-20からセリエAでジェノア、スペツィアを率いた後、昨シーズン序盤の22年9月、成績不振と3年前から患っていた白血病の病状悪化が重なる形で解任となったシニシャ・ミハイロビッチ(その後22年12月に死去)の後を受け、ボローニャ指揮官の座に就いた。
チアゴ・モッタと言えば、パリSGで監督キャリアをスタートして間もない2018年11月、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューでの「私のチームが[2-7-2]で戦っていると言ったら?GKは真ん中の7の中に含まれている」というコメントがあらゆる誤解と曲解を呼びつつ大々的にマスコミを賑わせたのが今も記憶に新しい。当時これを「チアゴ・モッタはGKを中盤に組み込んだ[2-7-2]システムを唱えている」と報じたメディアは少なくなかった。しかし『ガゼッタ』の元記事(2018年11月20日付)をよく読めば、これは単に[4-3-3]の配置を「縦読み」しただけの話(右レーンに2人、中央3レーンにGKを含めて7人、左レーンに2人)であることは明らか。彼の狙いが、数字の並びで戦術を語る限界を皮肉を込めて指摘することにあったのは明白だ。
このインタビューの中でチアゴ・モッタはすでに、その後ジェノア、スペツィア、そしてこのボローニャで一貫して追求することになる自身のサッカー哲学、チームのあり方を明確に語っていた。
「主導権を握って戦う攻撃的なサッカー。コンパクトで、高い位置からプレスし、ボールを持っている時も持っていない時も全員が一体となって動き、誰もが常に3、4の選択肢を持ち2、3人のサポートを得られるようなチーム。配置を数字で表すのは好きではない。サッカーで重要なのは並びではなく動き。超攻撃的な[5-3-2]も守備的な[4-3-3]もあり得る。私にとってFWは最初のDFでありGKは最初のアタッカーだ」
昨年9月、ボローニャでの就任会見のコメントも、その延長線上にあるものだった。
「チームのアイデンティティはシステムによって表されるものではない。私はもちろん攻撃的に振る舞うチームが好きだが、同時にバランスも保つ必要がある。相手を支配して試合を進め、ボールを失ったらすかさず奪い返すために闘う。私のチームは、一人ひとりのプレーヤーがその中で自由に自分を表現できるようにオーガナイズされていなければならない。FWはゴールを決めるのが仕事だが、グループの一員である以上、チームが状況を作るのを助けなければならないし、ボールがない時には最初のDFにならなければならない。しっかりプレッシャーをかけてくれれば後方は余裕を持って対応できる。これはDFにとっても同じこと。ボールがある時には最初のアタッカーでなければならない」
3+2↔2+3のユニットを支える両CBの「縦軸」形成
現在のボローニャはまさに、彼のこうした哲学を体現したチームだ。「主導権を握って戦う攻撃的なサッカー」とは言っても、一方的に敵陣に押し込んで数多くの決定機を作り「相手より1点多く取って勝つ」ようなそれとは違う。冒頭で触れたように、得点と失点のバランスが低い数字で釣り合っており、しかも最終的な帳尻はしっかりプラスになっているという「モダンで手堅い」戦いぶりが大きな特徴だ。
データ的には、得点、xG(ゴール期待値)、シュート数などアタッキングサード攻略に関わる攻撃の指標はいずれもリーグ10位前後という平凡な水準に留まっており、その一方で失点、被xG(失点期待値)、被シュート数など守備の指標はいずれもリーグでトップ3に入っている。これだけを見ると「守備的」という形容詞を使いたくなるのだが、実際のピッチ上での戦いぶりはまったくそうではない。というのも、ボローニャは本質的に「ボール支配による能動的なゲーム支配」をアイデンティティとするチームだからだ。
ボローニャの戦術的基盤をなしているのは、後方からのビルドアップとミドルサードでのポゼッションである。いわゆる「基本システム」を数字で表すと[4-3-3]、つまり4バック+3セントラルMF+3トップなのだが、ビルドアップ時は[3-2-5]または[2-3-5](敵のプレス枚数によって可変する)が基本的な配置になる。そこで特徴的なのが、3+2↔2+3というビルドアップユニットの流動的な構成だ。
通常、2枚のCBはビルドアップ時には横並びで第1列を構成するものだ。しかしボローニャの場合、左CBのリッカルド・カラフィオーリは最初から1列上がってセントラルMFとともに第2列を形成し、第1列にとどまる右CBのサム・ベウケマと縦の関係になる。ともにMF並みの高いテクニックとパスセンスを備えた2人のCBが「縦軸」を形成し、その左右にSBやセントラルMFが臨機応変にくっつくことで3+2(または2+3)が流動的に形成される仕組みになっているのだ。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。