※『フットボリスタ第99号』より掲載。
最後の砦としてゴールを守る守護神。フィールドで唯一、手を使うことが許されているGKに求められる役割は近年、激しい変化に直面している。
筆者は2018年に本誌連載『TACTICALFRONTIER』でもGKの「ディストリビューション」について解説したが、プレス回避におけるGKの重要性はここ数年でさらに高まっている。当時から欧州のトップレベルで活躍するエデルソンとアリソンはプレミアリーグの両巨頭として今も君臨するが、マンチェスター・ユナイテッドではついにダビド・デ・ヘアがチームを離れることになった。2011年に加入し、長くレギュラーを務めてきたスペイン人GKはキックの精度が低かったわけではない。しかし、ハイプレスが標準装備となった強豪チームとの対戦で、そのプレッシングを回避するようなディストリビューションのスキルは備えていなかった。
そんなユナイテッドで新守護神に指名されたのがアンドレ・オナナだ。27歳のGKは丁寧にボールを繋いでいくことを要求されるアヤックスで成長し、昨シーズンはインテルで活躍。CL決勝でもマンチェスター・シティのプレスを無効化するようなオナナのディストリビューションには注目が集まった。今回は、そのディストリビューションにおける「新しいスキル」について考察していきたい。
CBを走らせるパス、中距離の浮き球…
まず、ディストリビューションという言葉について復習しよう。Distributionは直訳すると「分配」。GKのプレーにおいてはパントキックやゴールキック、オーバーハンドスローやアンダーハンドスロー全般を指す。つまり、ディストリビューションの緻密化とは単に足下が巧みでキック精度の高いGKが重宝されることだけにとどまらず、正しい判断でボールを配球することで攻撃の起点になれるGKが求められていることを意味するのだ。
例えば、ベルギー代表が日本代表を破ったロシアW杯の決勝点。試合終盤の決定的なCKの場面でティボ・クルトワは、難しいボールをキャッチしながら次の攻撃を想定し、絶妙なアンダーハンドスローでカウンターの起点となるボールを配球している。
その2018年、筆者はディストリビューションを次の4つに分類した。……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。