結局のところ“大山鳴動して鼠一匹”となりそうだ。
12月22日、欧州司法裁判所が示した、UEFA、FIFAを「独占的」「強権的」「不透明」などとした判断は、スペインでは当初「欧州スーパーリーグにGOサイン!」と大々的に報じられた。
スーパーリーグの主導者レアル・マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長は「今日からクラブの運命を決めるのは我われだ」「自由な欧州の勝利であり、サッカーとファンの勝利である」と高々に勝利宣言。スーパーリーグのもう一人の信奉者バルセロナのジョアン・ラポルタ会長は「クラブが自身の運命を決める時が来た」と同調し「オープンで建設的な対話の場を持ちたい」とUEFA、FIFAとの合意を探る方向を示した。
同じタイミングで、スーパーリーグの運営企業『A22』から、64チーム参加(以前は12チーム)でよりオープンになった改正フォーマットの発表があり、「視聴は無料」とうたわれたこともあって、今にも新リーグが実現しそうな機運が急速に盛り上がった。
GOサインが出たわけではない
これに対し、国内リーグが壊滅的な打撃を受けると主張するラ・リーガのハビエル・テバス会長も素早く反撃を開始。『スーパーリーグが超巨大クラブのエゴイスティックでエリート主義なモデルである理由』というレポートをメディアに拡散すると同時に、試合前セレモニーで(閉じた参加資格を批判する)「グラウンドで勝ち取ってみろ!」というスローガンの横断幕やシャツを用意したアンチキャンペーンを大々的に展開した。
すわ、大論戦か? と思われたが、その後数日で一気に収束した。
カトリック国スペインゆえにクリスマスでそれどころではない、という事情もあるが、Rマドリー、バルセロナ以外に追随者がナポリくらいしか出なかったのが最大の理由である。
しかも判決をよく読むと、スーパーリーグにGOサインを出したわけではなく、新コンペティションの事前承認方法に問題がある、と認定しただけ。UEFAやFIFAが「独占的」で「強権的」で「不透明」なのは、今に始まった話ではないではないか。
ジローナが参戦できないフォーマット
この数日間の議論で面白かったのは、スーパーリーグの正体をスペインのファンに知らしめるのに役立ったのがジローナだったことだ。
リーグ2位で2023年を終えたジローナは、このままいけば来季のUEFAチャンピオンズリーグ出場権を獲得するわけだが、これがスーパーリーグだとどうなっていたか?
なんと、トップリーグの「スターリーグ」(16チーム)の下の「ゴールドリーグ」(16チーム)のさらに下、3部の「ブルーリーグ」(32チーム)からの出直しになる。歴史的な実績がないジローナがスーパーリーグに参加するには国内リーグで上位に入る方法しかなく、国内リーグとの入れ替えの出入り口はブルーリーグしかない。となると、1年の奇跡は起こせても2、3年連続するのは無理なので、ジローナのスターリーグ参戦は実質的に不可能ということになる。
これについて『A22』のベルント・ライヒャルトGMは「ブルーリーグへの参加要件は検討中だ」と逃げたが、アレクサンダー・セフェリンUEFA会長は「笑うしかない」と評している。
プレミアリーグの反応を見ても、スーパーリーグが2強以外のファンの支持を得られるかどうかは、スポーツ的なメリットが反映されたオープンなコンペティションか否かがカギなのは間違いない。「ジローナが参戦できないフォーマットなんて……」という呆れた空気が、スペインでは今、支配的になっている。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。