クラブワールドカップで決勝進出。フルミネンセのジニス監督が語ったこと
現在サウジアラビアで開催中のFIFAクラブワールドカップで、12月18、19日に2つの準決勝が行われ、22日の決勝はフルミネンセvsマンチェスター・シティというカードとなった。
フルミネンセを率いているのはフェルナンド・ジニス監督だ。リオデジャネイロの4大クラブの1つでありながら、近年はブラジル全国選手権でも中位に甘んじていたクラブの指揮官に、昨季途中の4月末に就任し、その年は20チーム中3位まで引き上げた。今年も継続して指揮を執り、11月、クラブ史上初となるコパ・リベルタドーレス優勝を達成したのだ。今年7月からは、1年間の代行としてブラジル代表監督を兼任するという、国内でも異例の経歴を歩んでいる。
前半は苦しみ、後半に改善して勝利
クラブW杯準決勝のアル・アハリ(エジプト)戦は、2-0で勝利した。その試合後の記者会見では、もちろん戦術や技術、采配に関する質問にも丁寧に答えていたが、同時にジニスらしい言葉も多く聞かれた。
彼は前半を「技術的、戦術的なミスから苦しんだ」とし、フルミネンセがこれまで、アル・アハリの選手たちのようなタイプの、フィジカルに加えてそれを生かすクオリティを持ったチームと対戦したことがなかったこと、ブラジルよりも短い芝への適応が必要だったことなども挙げながら、一番の問題が“緊張”だったと語った。
「フルミネンセはクラブW杯初出場の初戦で、緊張しながら試合を始めた。(ハーフタイムに)ロッカールームで話し、後半はもっとコントロールできる状態でピッチに戻ったんだ」
「前半は、いくつかの点では我われらしさを失っていた。必要のないパスを無理にしようとしたり、ロングボールを出したりね。後半は地に足をつけ、もっと我々の特徴を持ってプレーした」
後半での勝因については、先制点を挙げたことでスペースを得られるようになったこと、攻撃力が魅力と言われるチームにあって良い守備ができたこと、GKファビオの好セーブに何度も救われたことなどを挙げ、さらにこう語った。
「いくつかの修正をした。その1つは、もっと我われらしくあるということだ。我われの特徴は諦めないこと。難しい時間帯もあったが、悲観せずに落ち着いてプレーできた。耐えて、粘って、チームは強固になっていった」
そして「1年半以上かけてやっていることが違いを生み出している。我われは後ろからボールを繋いでゴールを決めた。チームにおめでとうを言いたいよ」と語った。
精神論ばかりではない。むしろジニスは、選手一人ひとりの特徴と技術力を見極め、戦術や戦い方を徹底的に植え付ける監督として知られている。その上で、こうした言葉の数々によって、記者会見ではあるが、同時に次の決戦に向けて、自分たちのやってきたことへの選手たちの自信に繋げることも意図しているように聞こえる。
「“勝った人”よりも、“良い人”を称賛したい」
フルミネンセがリベルタドーレス杯優勝を達成した11月4日の2日後のことだ。11月のW杯南米予選に向けて、ジニスがブラジル代表招集メンバー発表会見に臨んだ。優勝の歓喜の直後であり、同時に、すでに代表に向けて頭が切り替わっていたタイミングを生かし、ジニスに質問をした。
「ビッグタイトルを獲得した時には、優勝トロフィーの他に何を得ますか? また、その達成への道のりでは、戦術や選手の技術力の他に何が最も重要なものになりますか?」
というのも、ジニスは近年、常にブラジル屈指の監督とみなされ、メディアからも “将来のブラジル代表監督候補”と言われてきた。そして実際、代行とは言えブラジル代表も指揮している今、長年代表でプレーしている選手たちからも、非常に評判が良い。
ただ、優勝経験となると、監督としての15年の経歴の中で、今年のリオデジャネイロ州選手権が最高レベルだった。それが南米最高峰のタイトルを獲得したのだから、彼にとってどれほど大きな意義を持つものであるかを語ってもらえれば、という意図だった。ジニスの答えは想像とは違い、勝った時だからこそ言える、彼のタイトル哲学だった。
「タイトル達成はとても重要なものだ。誰もがそのために頑張っている。ただ、この機会を生かして、人生を通して考えていることを話したい。(今年のリベルタドーレス杯決勝で)ボカ・ジュニオールは負けたが、失敗したわけじゃない。もしフルミネンセが負けたとしても、失敗とみなすつもりはなかった」
「しかし報道やSNSでは、多くの人が負けた者の欠点ばかりを探して失敗のレッテルを貼ろうとする。そういう文化を変えることにも、僕は貢献したいんだ。我われは、正直に誠実に倫理的に、きちんと仕事をする人を評価するべきだ。より良い人がいつでも勝つとは限らないし、より良い仕事をしたら優勝カップを獲得するとも限らない。そして1位だけが称えられる社会では、数え切れないほどの多くの仕事が、正当ではない残酷な形で過小評価される」
「もしリベルタドーレス杯で優勝していなかったとしても、それなら今、我われは何が問題なのかを見つけようとしているだろう。改善し、進歩するために。それが僕の生き方だったし、これからもそうやって生きていきたい。僕の息子たちにもそうであって欲しい。彼らには良い人間、良い友達、良い息子たちであろうとして欲しい。そして、何かを競う時には、勝つためにベストを尽くして欲しい」
「良くても勝てないことはあるが、僕らにできるのは良くあろうとすることだ。“勝った人”よりも、“良い人”を称賛したい。それがみんなにとって、非常に大事なことだと思うからね」
世界タイトルの行方は22日の決勝を待つことになるが、ジニスとフルミネンセは、タイトルを目指し、そして、“勝つためにベストを尽くし、良くあろうとする”ことができたと思える戦いをするために、ピッチに立つ。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Lucas Mercon/Fluminense FC, Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。