アストンビラは「夢から覚めていい」。そう主張するのは『BBCラジオ』でビラの試合を実況するマイク・テイラー氏だ。
12月6日に行われたプレミアリーグ第15節、アストンビラがFWリオン・ベイリーの決勝ゴールで王者マンチェスター・シティを叩きのめした後、彼はこんな記事を掲載した。「試合後、リオン・ベイリーはカメラの前で静かにしゃべった。まるで、夢から覚めたくなくて、気を使ってしゃべっているかのように。だがこの夜、ビラは夢から覚めて良かったのだ。彼らは、本気で信じ始めていいのだ……」
内容でシティを圧倒したうえで勝利
この試合は、今季プレミアリーグの勢力図を書き換えるようなゲームだった。イングランドのフットボール界において史上初となる4連覇を目指す絶対王者シティは、この敗戦により、プレミアリーグ最近4試合で勝利なし。ペップ・グアルディオラ体制となってから最長に並ぶ未勝利だ。首位アーセナルに6ポイント差を付けられただけでなく、ビラに抜かれて4位まで後退したのだ。
一方、ウナイ・エメリ体制の公式戦50試合目となったビラは、これまで見たことがないほどシティを圧倒した。最終ラインを押し上げて、中盤でブロックを形成しながらハイプレスでシティのビルドアップを封印。シティがロングボールに頼ろうとしたら、そこはフィジカルに長けた自慢のCBが立ちふさがってFWアーリング・ホーランドを止めた。
シュート数はビラの「22本」に対して、シティは11分のハーランドの「2本」だけ。バルセロナやバイエルン時代を含め、グアルディオラ監督のチームが「2本」しかシュートを放てなかったのはリーグ戦535試合で初めてのこと。そして22本ものシュートを浴びるのもペップにとっては最多タイ。滅多にお目にかかれないほどシティは痛めつけられた。いくらMFロドリを出場停止で欠いたとはいえ、グアルディオラ監督も「今日はアストンビラの方が上だった」と素直に認めざるを得なかった。
そうなると、3位に浮上したビラは「優勝候補」と呼べるのか? 試合後の会見で、そんな質問を受けたグアルディオラは「間違いない」と断言した。「実際に対戦して目にした彼らのフィジカル能力、テンポ、スピード、ベンチ、エメリの組織力、セットプレー、ハイプレス、そして中盤のブロック、そして最終ラインのDFとGKの能力など、間違いなく優勝候補だ」
エメリは「まだ第15節なので先は長い」
しかし、監督キャリア15戦目の挑戦でようやくペップに勝利したエメリは、そんな話題にも浮かれる様子はない。「我われは優勝候補ではない」と口を開くと、優勝候補は「他に7チームいる。まだ第15節だし、次節にはアーセナル戦が控えている。集中しないといけない。3位にいられるのはうれしいが、この位置をキープするのは非常に難しい」と続けた。
そのうえで「まだ違う」とも語った。「まだ第15節なので先は長い。ただ、こういう戦いをして勝ち続けることができれば、もしかすると優勝候補になれるかもしれないが、今は違う。もしかすると第30節、第32節には変わるかもしれないが、今はまだ違う」
これでビラは、リーグ戦のホームゲームでクラブ記録に並ぶ14連勝。そして開幕15試合で勝ち点32というのは、クラブ史上2番目の記録となっている。今季よりも好スタートを切ったのは、彼らが最後にイングランドの頂点に立った1980-81シーズンだけ。その翌年にはチャンピオンズカップ決勝でバイエルンを倒し、トヨタカップで来日もした。そんな栄光の時代に迫るほどの快進撃を見せているのだ。
夢見心地のビラについて「エメリは魔法が解けないように、優勝候補ではないと言い続ける」とマイク・テイラー氏は綴った。「これまでは言い逃れができた。ビラは上位勢に勝てていないとか、ケガ人が出たらおしまいだとか、今回の勝利についてだって(出場停止で主力を欠く)シティと当たるタイミングが良かったと言われるのだろう」
「そうなのかもしれない。ビラには最後まで乗り切るだけの選手層がないのかもしれない。でも、そんなことは言わせておけばいいさ。だって、私たちは水曜日の夜、何が起きたか目撃したのだから」
ビラは今月9日、首位アーセナルをホームに迎える。もし、その試合にも勝つことができれば、彼らは本当に「夢から覚めていい」のかもしれない。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。