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女子代表親善試合、ブラジルから見たなでしこジャパン戦の意義

2023.12.08

 11月30日と12月3日、ブラジル女子代表がなでしこジャパンを迎え、ブラジル・サンパウロで親善試合2戦を戦った。

 2011年ワールドカップ優勝をはじめ、国際舞台で結果を出している日本は、ブラジルでも非常に尊重されている。2021年に就任した池田太監督の下、今年7〜8月に行われたFIFA女子ワールドカップでも、結果こそ準々決勝敗退だったが、ブラジル代表アルトゥール・エリアス監督は「大会最高のサッカーをするチームだった」と今回の試合前に称えていた。

 ブラジルはその女子W杯で無念のグループステージ敗退に終わったことを受け、ピア・スンドハーゲ監督が解任となり、9月にアルトゥールが新監督に就任したばかりだ。彼は2016年から女子サッカークラブの監督を歴任し、コリンチャンスではブラジル全国選手権で5度、南米最高峰を競うコパ・リベルタードレスで3度のタイトルに導いている。

9月に就任したアルトゥール監督の下、チーム強化に励む(Photo: Nayra Halm/Staff Images Woman/CBF)

 すでに昨年のコパ・アメリカ優勝によって、2024年五輪出場枠を獲得しているブラジルは、パリでの本大会に向けて、新体制の下で早急にチームを構築していく必要に迫られている。ここまで、まだアウェーでカナダ代表と2つの親善試合(1戦目は1-0の勝利、2戦目は0-2の敗戦)を戦ったのみ。そのため、アルトゥールは今回も日本という強い相手との対戦を、絶好のテストと経験の場と捉えていた。

 1戦目(inネオ・キミカ・アレーナ)は日本に先制されたものの、ブラジルが3点を連取して3-1に差を広げた。しかし、2点を返されて3-3。最終的に、アディショナルタイムに1点を追加したブラジルが4-3で勝利する、白熱した試合となった。

 2得点を決めたFWビア・ザネラット(パルメイラス)は、ビューティフルゴールとなった2点目について「日本のボールの出どころで、私たちがプレッシャーをかけて、ボールを奪うことができた。その後、個人的にはフィジカル面も生かしてボールの競り合いに勝ち、ゴールで締めくくることができた。組織と個の連携がうまくいった」と振り返った。

 ただし、3失点したことで、DFブルニーニャ(NJ/NY ゴッサムFC)は、「細かいところを修正していかなくては」と反省も口にしていた。

敗戦から得た大きな収穫

 0-2でブラジルが敗れた2戦目(inモルンビースタジアム)は、ブラジルが6人、日本が5人と、両チームともスタメンを大きく入れ替え、戦い方も変えて臨んだ。ブラジル代表では、まさかの新型コロナ感染者が出て、1戦目に1人、2戦目に3人が欠場となった事情もある。ただ、アルトゥールは当初から、多くの選手に出場のチャンスを与えることを、今回の目的の一つとしていた。

 2戦目の狙いとしては、よりスピーディーに展開し、ゴールライン際まで使って攻撃するパターンを増やすこと、また守備ではより高い位置から強いプレッシャーをかけていくことだった。しかし、前半に2失点。ブラジルも特に後半は厚みのある攻撃をし、チャンスを作ったが、守りを固める日本に対し、ゴールを決めることができなかった。

 それでも、アルトゥールはポジティブだった。

 「日本は女子W杯のチームをベースにした、完成度の高い素晴らしいチームだ。その相手に対し、我々は積極的で勇気ある守備ができたし、相手の攻撃に対してフィルターをかけることができた。何より、選手たちは少ない練習の中でポジショニングや役割の変更を理解し、自信を持って、献身的にプレーしていた。もちろん、まだ足りないことは多いが、我われは成長しつつあり、非常に満足している」

 同じ相手との連戦で2試合目に結果を出した日本よりも、ブラジルの方が敗戦の痛みを感じていたように見えた。ただ、DFタミーレス(コリンチャンス)は、日本との2試合をこう振り返った。

 「勝利からも敗戦からも、良い点と反省点を得ることができる。システムを変えたけど、今は私たちにとって、練習とテストの時。オリンピックでどんな状況に直面しても準備ができているというふうになるために。日本は素晴らしいチームだし、最初から最後まで、非常に集中していた。だから、2試合とも最高にインテンシブなものになったのは、とても重要な状況だった」

 そして、FWマルタ(オーランド・プライド)だ。今回は2試合とも途中出場となったが、マルタがピッチに入ると試合に勢いが増した。スタンドの歓声も高まることから、それがチームにエネルギーを注ぐことになるのも見て取れた。その彼女はこの2戦目について、チーム構築中の今、必要なことを再確認したと語っていた。

 「2戦目は前半に2失点した後、引き分け、逆転するために取るべきリアクションを取れなかった。日本は技術的なクオリティが高い上に経験豊富なチームだから、スコアに応じてプレーしていた。ボールをキープして、試合の流れを止めるべき時には、きちんと止めるなどね。私たちにも良い面があったけど、サッカーとは結果がモノを言う。成長のプロセスにおいて、私たちはもう少しテストしながらも勝てるようにやっていくことが大事だと思う」

マルタが出場すると、観客のボルテージは一気に高まった(Photo: Nayra Halm/Staff Images Woman/CBF)

2試合とも多くのサポーターが集結

 ブラジル人ジャーナリストたちに総括してもらうと、時間帯によってスペースが空きすぎた中盤や、2試合で5失点となった守備面に対して、辛口な意見が飛び出した。同時に「この後、格下のニカラグアとも親善試合をするのだから、新たなテストはそこで行うことにして、強い日本との2戦目は、勝利した1戦目に修正を加える形で完成度を上げる方向が良かったのでは、と思う。それでも、アルトゥールは試したいことを、強い相手だからこそ、試したかったのだろう」とも理解していた。

 ブラジルは2027年女子W杯開催国の招致に立候補するため、国を挙げて女子サッカーを盛り上げていきたいというのもある。

 今回、1戦目は平日である木曜日15時15分という条件の中で、観客数は7500人弱。2戦目は日曜日11時キックオフで1万3000人強。今年、女子サッカーのホームゲーム史上最多入場者数記録となった、女子W杯直前の7月2日に行われた親善試合チリ戦(inブラジリア)の1万6000人弱には及ばなかったものの、駆けつけたサポーターは大いに盛り上がった。

 スタンドの一角を占めていた少女たちは「強豪同士の代表戦をスタジアムで見られるのはとてもうれしい」と話し、スター選手たちの名前を呼びながら、目いっぱいの声援を送っていた。

 また、コリンチャンスのトレーニングセンターを使って練習していたため、見学に来ていたクラブの男子下部組織の少年たちは「あれほど魅力的な試合が見られるのだから、女子サッカーはこれからもっと注目されるに違いない」と語っていた。

2試合とも多くのサポーターが集結。ファンサービスをする選手も笑顔だった(Photo: Nayra Halm/Staff Images Woman/CBF)

「再び女子代表の魅力を実感してもらえた」

 最後に、マルタが語った日本戦の意義を紹介したい。6度のFIFA最優秀選手賞を獲得し、圧倒的な実力と人気でブラジルのみならず、世界の女子サッカーを牽引してきたマルタ。現在37歳、今年、自身のW杯への挑戦はこれで終わったと宣言したものの、やはり最後となるであろう五輪に意欲を燃やしている。

 「サッカーとは“感動”がすべてを要約する。特に1戦目は、選手とスタッフみんなにとって感動的だった。そしてもっと大事なのは、試合を見に来てくれたサポーターに、あの激闘と勝利によって感動を伝えられたこと。週の半ばで多くの人たちは仕事をしている難しい時間だったのに、私たちに価値を置いて来てくれた。だから、サポーターにすごく感謝しているし、再び女子代表の魅力を実感してもらえたことが、女子サッカーの今後にとって重要なものだった」

 彼女にとって、目標は勝利やタイトルだけでなく、女子サッカーのさらなる発展だ。選手やジャーナリスト、サポーター、いずれの意見でも“強い日本”という言葉が常に出てくるし、その日本と2試合できたことが、ピッチの内外で非常に良かったと言っていた。ブラジルにとっての収穫は、日本にとっても誇れることであるに違いない。

日本との2連戦は有意義だったと振り返ったマルタ(Photo: Kiyomi Fujiwara)

Photo: Kiyomi Fujiwara, Nayra Halm/Staff Images Woman/CBF, Getty Images

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なでしこジャパンブラジル女子代表マルタ

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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