失点関与と惨敗をSNSで謝罪した悪夢のニューカッスル戦から1週間後、男は変わらずピッチに立ち、本来のパフォーマンスでブライトン撃破の立役者となった。1984年9月22日生まれの39歳、今季プレミアリーグ出場選手の中でも最年長(2位はエバートンの38歳アシュリー・ヤング、3位はブライトンの37歳ジェイムズ・ミルナー)でありながら、開幕からチェルシーのフィールドプレーヤーで唯一フルタイム出場を続ける鉄人、チアゴ・シウバである。
クラブ新記録「39歳64日」がワーストゲームに
あり得ないようでいて、実は「一寸」ならぬ“一試合”先の闇。チェルシーでの「チアゴ・シウバ限界説」は、そういったところだろう。
2020年夏の移籍(←パリ・サンジェルマン)以来、絶対的な守備の要であり続ける事実からすれば、お門違いもいいところだ。まさかの低迷に終わった昨季にしても、プレミアリーグで25試合に先発フル出場したブラジル代表CBがいなければ、失点数は「47」では済まず、順位も12位より下がっていたに違いない。T.シウバの奮闘は、ファンと同僚の投票によるチーム年間最優秀選手賞2冠で認められている。今季も、チームのDFではただ一人、開幕からリーグ戦先発が続く(第15節終了時点)。
にもかかわらず、1つでも目立つミスがあろうものなら、移籍時点で35歳だった年齢がメディアに「見切りをつける潮時」と言わせる。思えば、プレミアデビュー戦がその類。ボールロストがウェストブロミッチ(現2部)の追加点に繋がり、いきなり「偉大な選手だった」と過去形で語られる羽目になった。11月25日の今季第13節ニューカッスル戦(●4-1)は、その最新例だ。
敵地での惨敗は、マウリシオ・ポチェッティーノ新体制下でのワーストゲームと評して差し支えない。そのピッチ上でジョエリントンにボールを奪われ、事実上の敗戦決定を意味する3失点目に関与したT.シウバ個人は、チェルシーでのワーストゲームだったと言える。おまけに、39歳と64日でクラブの史上最年長フィールド選手となった当日。ボールにつまずいて転倒するシーンまで見られた大ベテランを「まさに最年長」と皮肉ったのは、ロンドンの地元紙『イブニング・スタンダード』だけではなかった。
では、本当に限界なのか? 昨夏のオーナー交代を受けて急激に若返りが進んだチームに、もはやT.シウバは不要なのか? 筆者に言わせれば答えは「ノー」だ。その理由は、続く第14節ブライトン戦(○3-2)に集約されていた。勝利で立ち直りを示されなければならなかったホームゲームで、T.シウバ自身がそれを体現した。つまり、「30代後半にしては」というレベルではなく、純然たるトップクラスとしての健在ぶりを示したのだ。
メンターの「声」が“若い”チームにもたらすもの
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。