浦和レッズレディースで長年プレーした元なでしこジャパンの吉良知夏は、オーストラリアWリーグのメルボルン・シティ、日本のオルカ鴨川FC、スペイン2部のSE AEMを経て、今シーズンからオランダ1部のテルスターでプレーしている。なぜ、彼女はオランダに渡ったのか? 異国の地で何を得ているのか? 「めっちゃ濃い」と語る2カ月半を現地在住の中田徹氏がレポートする。
オランダ行きのきっかけは国際大会での好印象
オランダ女子エールディビジのテルスターに入団したばかりの吉良知夏に向かって、チームメイトのMFエリーセ・マイイェリンクが「なんでオランダに来ようと思ったの?」と尋ねてきた。
「8年前、浦和レッズレディースのオランダ遠征で大会(ICG国際サッカートーナメント)に参加して、とてもこの国の印象が良かった。『いつかオランダでプレーしたい』と思っていたんだ」
するとエリーセは「えっ⁉ 私もその大会に出ていたよ」と驚き、2人で当時の写真を見ながら奇跡の再会を喜び合った。
それまで日本代表の一員として国外遠征を経験してきた吉良だったが、24歳の時に参加したICG国際サッカートーナメントは「代表の遠征と違った緊張感、というより楽しさの方があった」のだという。レッズは優勝し、自身は大会MVPに選ばれた。観客のサッカーに対する熱、フレンドリーな国民性に惹かれ、吉良はオランダでプレーする機会を伺っていた。浦和、メルボルン・シティ(オーストラリア)、オルカ鴨川、SE AEM(スペイン)を経て、昨夏、吉良はオランダの地にたどり着いた。
大敗が続いた試練の9月
開幕スタメンで9月9日のPSV戦に挑んだものの、チームは5-0の完敗を喫した。吉良のポジションは攻撃的なインサイドハーフ。しかしアンカー一枚ではPSVの攻撃を食い止め切れず、前半途中からテルスターは中盤のシステムをダブル・シックスに変更し、吉良はセントラルMFとしてプレーした。
「このパターンはあらかじめ聞いておらず、自分が何を求められているのかわからず頭の中が真っ白になりピッチの中で迷子になってしまった」
ハーフタイムに監督、チームメイトと話し合うことで頭の中を整理し、チームは後半崩れて4点を失ったが、吉良自身としてはプレーを立て直すことができた。
次節のトゥエンテ戦(9月16日)も、テルスターは0-7という大差で敗れた。本来のインサイドハーフに専念した吉良は「力の差が数字に出た試合だった」と振り返る。
「トゥエンテはエールディビジ最多優勝チーム(8回)。速くて強くて上手い選手が揃っていた。『これがオランダリーグ一番のチームなんだ』というのが身に沁みました。せっかくの試合なので『何か通用できるものはないかな』と考えながらプレーしたのですが……。できた部分は少なかった。『この強度にもっと慣れたい』と思いました」……
Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。