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【大分・新旧指揮官対談/中編】片野坂知宏×下平隆宏。プロ監督が直面する「理想」と「現実」のリアル

2023.12.05

2016年から6シーズンにわたって大分トリニータを率いた片野坂知宏氏が、解説者として大分のグラウンドに練習取材に訪れていた10月下旬。高校選手権で対戦して以来の盟友だった片野坂氏からチームを受け継いだ下平隆宏監督と、昨今のサッカー戦術トレンドやそれに対応するためのトレーニングや指導をテーマに、対談を組んだ。

その後、2シーズン目を終えた下平監督は今季限りで大分を離れることになり、後任として来季からは再び片野坂監督体制となることが決まった。対談の時点では当事者を含め、誰も予想していなかった展開だ。そんなシチュエーションも前提にしながら、2人の智将が繰り広げためくるめくサッカー談義を楽しんでいただきたい。

中編では、片野坂監督がガンバ大阪で、そして下平監督が大分トリニータで何を目指したのかという「理想」と、目の前の勝敗という「現実」にどう立ち向かったのか――プロ監督が直面する究極のジレンマについて語り合う。

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エコロジカル・アプローチは育成向き?

下平「で、エコロジカル・アプローチのトレーニングでの取り入れ方は、阿吽の呼吸でのコンビネーションがゲームの中でなるべく多く出るようにトライした。まあ、リターンなしとかいった制限はよくあるじゃない。あとはダブルバックパス禁止とか。バックパスを連続するのを禁止して、1つ下げたら必ず前、というふうに。そうすると下げたらもうあとは前の選択肢しかないから、前の選手の動き出す反応が早くなるんだよね。

 そういうのをやって、ワンタッチで背後を狙ったりするプレーが試合で出るようになったかなとは思うけど、でも実際にそのトレーニングが、果たして勝ち点3にダイレクトにつながるかと言ったら、またちょっと別なのかなという気もする。阿吽の呼吸や局面のところの幅は広がるけど、それだけで勝てるものでもないからね」

片野坂「本当にサッカーには正解がないからさ。スキッベさんみたいに、自分たちの戦い方が明確にあった中で大体同じようなトレーニングをルーティンでやって、普段のトレーニングから負荷や強度を高くして試合と同じようなかたちでやる方法もあるだろうし、シモが今季やってきたようにシーズン最初の選手の意見を取り入れた中でやりやすいようにやりながら最初に勢いを出して、怪我人が出たり対策されたりしたらちょっとやり方を変えたり。そんなふうにいろんなことをやりながら、どれも勝ち点を取るためなんだよね。勝利するためにいろんな決断をしなきゃいけない」

下平「うん。だからエコロジカル・アプローチというのはもしかしたら育成年代とか、ある程度時間をかけることができる時にはすごくいいんじゃないかと思う。2年や3年にわたって1つのチームを任されて、トレーニングを繰り返しながらコンビネーションを培っていくとか」

片野坂「うんうん。その本の著者(アレッサンドロ・フォルミサーノ/ペルージャU-19監督)の方もアカデミーの方を指導されていたんだよね。そういう中で考えられたものなのか」

下平「そう。アカデミー指導の方が長い人だよね。だから、もしかしたらトップチームのように1年や半年で結果を出さなきゃいけないといった、結果を求められるところでは、少し時間が足りないかなという気がする。時間をかけずに結果に繋げられるのは、こちらがポンと提示したり指示したりして、こういうやり方で、こういうシステムで、というふうにやった方が、やっぱり早いかなって」

片野坂「まあそうだね。やっていて、選手は(指示を)欲しがったりしなかったの? これどう崩すの、どう点取るの、どう守ればいいの、とか」

下平「欲しがるよ。点の取り方、守り方。だけど、一番良いのはそれが自然発生的に自分たちで出せること。コンビネーションなんかもどんどん生まれていくのがやっぱり理想かなと思う。それは本当に思う。けど、なかなかそれが出なかったり時間がかかったり即効性がなかったりすると、どこの監督も結果を求められるから」

外国籍選手が8人!ガンバで学んだマネジメント

片野坂「本当そうだよね。僕もガンバでやらせてもらって半年で解任されたけど、やっぱり理想と現実の戦いがあって。ガンバを本当に強くしたいと思って、ガンバの選手に合うサッカー、そしてガンバの新しいサッカーを作っていきたいなと思いながら」

下平「ガンバでもトリニータみたいな感じでやろうと思ったの? それともまた別な感じで入ったの? 最初は」

片野坂「うーん、ちょっと違ってたかな……。すでにガンバのサッカーは攻撃的って言われていたし、ボールを持つことがカラーで。でも、今の現代サッカーってスピードが上がっていてトランジションも早い。ガンバはそういうところに少し緩さというか遅さがあったから、そういう刺激からまず入れて、とにかく強度高く連続して守備に行くとか、失った時には素早く切り替えてポジションを取るとか。早く準備して、相手ボールになったらそこで奪えばチャンスになるとか。そういった、戦術を落とし込む以前の、切り替えだとか反応だとか、強度を上げるといったところをキャンプからやって、試合に向けて戦術を少しずつ、ビルドアップのところなんかを入れたりね」

ガンバ大阪時代の片野坂氏(Photo: Getty Images)

下平「ガンバの選手って、これは僕の試合を見た上での勝手な想像なんだけど、ちょっと戦術的なものにアレルギーがあるのかなっていう気がした」

片野坂「そう。だからね、選手に伝える時に、どこまで言うか、どこまでプレーさせるかという、そのへんのバランスを僕も学んだし、そういう経験をまた次に生かさなきゃいけないなと思いながら。外国籍選手の多いチームなので、彼らに対しても配慮した。トレーニングがすべてでそれが大事だとは言ってあったんだけど、シモもブラジル人選手とは結構一緒にやってるからわかるよね? 彼らの考え方って『俺、トレーニングはこんな感じだけど試合でやるから』っていう感じで。

 実際、僕が解任された後に松田浩さんが就任して、2トップにパトリックとレアンドロを並べて、点を取ったりしてるから。それで1-0で勝ったり引き分けたりとすごく粘り強くやっててね。僕の中では外国籍選手2人を前に並べたらもう絶対にボール取れないっていうのがあって(笑)」

下平「いやもう制御できないよね。守備の規律から外れる選手が1人いただけで難しいからね。2人並べたらなおさら大変だよ(笑)」

片野坂「うん。だから、トレーニングでやってくれたら試合に出すよと言ったし、そういうところも求めたんだけど、なかなか難しくて。でも、試合に出したら点を取るっていう結果を出したんだよね。だから、ある程度は目をつぶらなきゃいけないところと、その外国籍選手のストロングポイントを引き出せるような仕組みなり何なりを考えて提供してあげながらやるようにした方がいいんだろうなと思って。今後、自分が次の現場に行った時のそういう選手の扱い方について、伝え方とかやっぱり考えた。

 スキッベさんを見ていてもポジティブなことってすごく大事だなと思ったし、外国籍選手に対しても、本当は僕はあまり特別感を出すのはダメだと思ってるんだけど、そういうことをしてもいいのかなとも思ったり。そういう対象が、ガンバの場合は外国籍選手だけでなく日本人選手にもいたし、日本代表に入った経験のある選手もいたし。そういう選手たちに対して特別感を出すことと、そういう選手に任せてあげる部分も必要なのかなと。あまりにもこっちが強制して指示するよりは、ある程度こういうところをやって、という感じで。

 最初にガンバに就任したばかりの時はあまり言いすぎちゃいけないなと思ったの。『このポジションの3人でここを突破するような関係性を作って』といった感じで伝えると、その近いポジションの3人が話をしながら関係性を築いてくれるだけのレベルがあったから。そういう形でアプローチするようにしてたんだよね。結局は、組み合わせ。SBとSHとの組み合わせだとか、CBとボランチの組み合わせだとか。どういう組み合わせでどういう関係性が一番スムーズに行くのかなというところを、トレーニングで見たりしていた」

下平「やっぱりビッグネームがいたり外国籍選手がいたりするとマネジメントが変わってくるよね」……

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ガンバ大阪下平隆宏大分トリニータ片野坂知宏

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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