永続的なビジネスの仕組みを作る――栃木シティ、悲願のJFL昇格を支えた「経営の健全性」
地域リーグからJFLに昇格するための大会、全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(以下、地域CL)。4チームが1日おきの3試合を戦う決勝ラウンドは今年、栃木県宇都宮市の栃木グリーンスタジアムで開催された。決勝ラウンドを2勝1敗で競り勝ち、悲願のJFL昇格を決めたのは栃木シティだった。現地取材した宇都宮徹壱氏が、大栗崇司代表が目指してきたビジョンに迫る。
JFLは「昇格する場所」であり「戻る場所」
宇都宮駅からグリスタへは、この8月に開通したばかりの路面電車、宇都宮ライトレールを利用。JFL昇格を懸けた3日目の朝、グリスタに向かう車内でぶどうのデザインが施されたマフラー姿の男性が視界に入る。どうやらウーヴァ(ポルトガルで「ぶどう」の意味)時代から、栃木シティFC(以下、栃木C)を応援していた古参サポーターのようだ。
関東1部リーグの強豪として知られながら、6シーズンにわたってJFL昇格を果たせなかった栃木C。しかし、古くからこのクラブを応援している人々にとり、JFLは「目指す場所」というよりも、むしろ「戻る場所」というのが正しいのかもしれない。
日立栃木ウーヴァSC時代の2009年、彼らは長野県松本市で行われた地域決勝の決勝ラウンドで2位となってJFLに昇格。2010年からは栃木ウーヴァFCと改称し、JFLを8シーズン戦ったのち、2017年に関東1部に降格している。
2018年、日本理化工業所代表取締役社長の大栗崇司氏がクラブ代表に就任。翌19年から、現在のクラブ名での活動をスタートさせている。この間、関東1部で優勝し、地域CLに挑むこと3回。2018年は1次ラウンドで敗退し、20年と23年は決勝ラウンドに進出したものの、いずれも3位に終わって昇格の夢を絶たれている。
地域CLは、全国9地域リーグのチャンピオンが集う大会。ただし2位以下に終わった場合でも、全国社会人サッカー選手権大会(以下、全社)でベスト4以上の成績を収めれば、「全社枠」として出場権を得ることができる。2023年の栃木Cは関東2位で終わり、全社枠に懸けることとなったが、まさかの1回戦敗退。これで、彼らの今シーズンは終わったかに思われた。
ところが最大3つの全社枠のうち1つが埋まらず、規定によりJリーグ百年構想クラブだった栃木Cに出場権がめぐってくる。再びチャンスを手にした栃木Cは、1次ラウンドを3戦全勝で突破。地元で行われた決勝ラウンドでは、初戦で福山シティFCに1-2で敗れたものの、続くVONDS市原FC戦(1-0)とジョイフル本田つくばFC戦(4-0)に連勝し、7シーズンぶりとなるJFL復帰を果たすこととなった。
栃木Cの選手やスタッフが喜びを爆発させる中、ひとり目頭を抑える大栗氏の姿があった。実業家としての重責を担いながら、地域リーグの沼にどっぷり浸かって6年。これまでの艱難辛苦を思えば、自然と落涙するのも当然である。
大栗氏の「スイッチが入った」ソニー仙台戦の大敗
大栗氏は、日本理化の創業地である東京・品川区の出身。創業者の故郷である、栃木県壬生町にも工場があることから、東京と栃木を行き来しているうちにウーヴァとの接点が生まれた。当人の話を聞こう。
「ウーヴァのHPをたまたま見ていたら、ユニフォームスポンサーが1社もついていないことに気がついたんです。それで当時、代表をされていた岩原(克彦)さんに連絡を取りました。岩原さんも壬生の人で、日本理化との接点も多かった。すぐに意気投合して、背中のユニフォームスポンサーになる話が決まりました」……
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Profile
宇都宮 徹壱
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。2010年『フットボールの犬』(東邦出版)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、2017年『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)でサッカー本大賞を受賞。16年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(https://www.targma.jp/tetsumaga/)を配信中。