11月19日、イングランド女子スーパーリーグ(WSL)の第7節で、今シーズン最初のマンチェスターダービーが行われた。11月のイングランドは、16時には陽が落ちて宵闇が迫ってくる。キックオフの16時半にはすでに真っ暗、しかも風雨が四方から吹きつけ泣きたくなるような寒さだったが、伝統のダービーには血が騒ぐとあって、会場となったマンチェスター・ユナイテッドの本拠オールドトラッフォードには、ユナイテッド・ウィメンのホームゲーム新記録となる4万3615人の大観衆が詰めかけた。
「気持ちを込めて戦った」特別なダービー
日本のファンにとっては、ユナイテッドの宮澤ひなたvsシティの長谷川唯という“なでしこ対決”も注目となったこの一戦。長谷川は先発、宮澤はベンチスタートでキックオフを迎えた。
試合は20分、元ユナイテッドのキャプテンで現在はシティでディフェンスラインの中核をなすアレックス・グリーンウッドが、ペナルティエリア内でフランス代表FWメルビン・マラールのシュートに反応した際にハンドボールを取られてPKを献上。これを現キャプテンのケイティ・ゼレムが決めて、スタンドの大歓声の中、ユナイテッドが先制した。
ユナイテッドは続けてブラジル代表FWジェイズが角度のないところからゴール側面にシュートを突き刺したが、直前にボールがエンドラインの外に出ていたため無効に。そんな「レッド」優勢で幕を開けたゲームの流れは、その後徐々に「ブルー」へと傾き出す。
34分にオランダ代表MFジル・ロードが、その直後にはイングランド代表の主力の一人、ローレン・ヘンプがネットを揺らし、シティが一気に逆転。2点目のゴールシーンの起点になったのは長谷川だった。
ボールホルダーのゼレムに後方から近づくと、足下から巧みに奪い取ってすかさずFWに展開。受けたカディジャ・“バニー”・ショーのシュートは弾かれたが、ショーはセカンドチャンスを冷静に右サイドのヘンプに繋いでシティが試合をひっくり返した。
昨シーズンは公式戦31得点をマークした主砲のショーは、後半の55分にも相手GKの甘いゴールキックをダイレクトで押し込み、シティがリードを1-3に広げる。その後スペイン代表の右SBライア・アレイサンドリが2枚のイエローカードで退場となり、シティは残りの約20分間を10人で戦うハンデを負ったが、GKの好セーブと、数的不利を上回る戦闘意欲で11分間という異例のアディショナルタイムも守り切り、ユナイテッドの殿堂シアター・オブ・ドリームズで勝利を奪った。
相手からことごとくボールを奪っては攻撃の芽を摘み取った長谷川は、81分にCBのステフ・ホートンと交代してピッチを退いたが、その際スタンドの一角を埋めたシティサポーターから贈られた大声援が、彼女の活躍ぶりを証明していた。
一方ユナイテッドの宮澤は、終盤戦の反撃を託されて77分から登場。少し離れた位置からもゴールを狙うなど、挽回のチャンスを見出そうと奔走したが、この日のシティには“PK献上+退場”という波乱の展開をも跳ね返す強さがあった。
入団初年度の昨シーズンは、ユナイテッドと1分1敗に終わっていた長谷川にとっても、これが最初のマンチェスターダービー勝利。
「マンチェスターダービーは特別なので、特にアウェイの地で勝てたのは本当によかったなと思います」と試合後の表情にもハツラツとした笑みがあふれた。
前節はブライトン(●0-1)、その前はアーセナル(●2-1)とリーグ戦で2連敗中だったシティにとってこの一戦は、単にダービーというだけでなく、「しっかり(負けの流れを)途切れさせるという、気持ちを込めて戦った試合」だったという。
自分に合ってるシティで、「ものすごく成長に繋がっている」実感
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。