【短期集中連載】J1昇格プレーオフのキーマン#4
東京ヴェルディ編:谷口栄斗
明治安田生命J2リーグ第42節が終わり、J1昇格プレーオフ出場クラブが決まった。3位東京ヴェルディ、4位清水エスパルス、5位モンテディオ山形、6位ジェフユナイテッド千葉の4チームだ。トーナメント形式の一発勝負で優勝チームがJ1昇格の権利を手にすることになる。この決戦のキーマンとなるのは誰なのか?
第4回の東京ヴェルディ編では、アカデミー出身の頼れる闘将系センターバック、谷口栄斗をピックアップ!
J1クラブからの誘いを蹴り、アカデミーを過ごした古巣へと“漢気帰還”
2位・清水エスパルスから4位・東京ヴェルディまで勝ち点差『1』という超大混戦で迎えた11月12日、2023 J2リーグ最終節。清水が敗れ、東京Vはアウェイで大宮アルディージャに0-2で勝利したが、得失点差で上回っていた同勝ち点の3位・ジュビロ磐田も勝利したことで、自動昇格の権利は磐田の手に渡ることとなった。「可能性がある限り、最終節の試合終了のホイッスルがなるまで、我々は絶対に自動昇格を諦めない」との城福浩監督の言葉通り、チームは最後の最後まで一縷の望みを信じ続け、戦ってきたが、あと一歩、及ばなかった。
すでにプレーオフ進出は決まっており、まだJ1昇格の可能性は十分にある。それでも、最大の目標を達成できず、多少の気落ちの色は見えるのかと思いきや、試合後の選手たちの表情は活気と自信に満ち溢れていた。とにかく、誰一人ネガティブな言葉を発する選手がいないのである。谷口栄斗もきっぱりと言い切った。「今日の僕らは、一番下から這い上がるしかなかったので、(自動昇格が叶わずとも)悲観していません」。
年明けから、谷口の今季に懸ける思いは誰よりも強かった。
小学4年生から高校3年生まで東京ヴェルディのアカデミーで育ち、U‐18、U‐19と世代別日本代表にも選出されたが、トップ昇格を果たすことができず、国士舘大学へ進学した。4年間で対人の強さ、タフさを身につけたことで評価をさらに上げ、J1クラブなどからの誘いもあったことは確かだ。だが、「大学で怪我があった中でも、ヴェルディがしっかりとサポートしてくれて、復帰まで導いてくれました。その恩返しの部分もありますし、9年間アカデミーで育ってきたので、帰ってくるのが一番かなと思って」と、2022シーズンから再び緑のユニフォームに袖を通している。
1年目から主力として起用され、持ち味を発揮して34試合出場1得点の成績を残した。特に昨季の終盤、チームはラスト5試合連続無失点でシーズンの幕を閉じたが、そのすべての試合でセンターバックとして先発フル出場を果たしたことは、谷口にとって大きな自信になっていた。
下部組織で育ったからこそ、副キャプテンの立場に意味がある
迎えた2年目の今季、早くも置かれる立場が大きく変わった。昨季ディフェンス面でチームを力強く牽引していたンドカ・ボニフェイス(横浜FC)、馬場晴也(北海道コンサドーレ札幌)、さらにはチーム得点王だった佐藤凌我(アビスパ福岡)と、中心選手たちがチームを去ったのだ。
1年目は、ルーキーらしくただ自分のプレーをがむしゃらにやることに専念すればよかった。だが、そのために生じたミスをカバーしてくれたり、チーム全体のことを見ながらプレーしてくれていた存在は、もういない。「今年は、そういうことを自分がやらなければいけないんだと、ある意味、(主力選手たちの移籍が)僕に自覚を芽生えさせてくれました。今年は勝負の年。チームの中心としてやっていきたい」。
その覚悟は、チーム始動日から谷口の全身に溢れ出ていた。オフ期間にパーソナルトレーナーの指導のもとで強く大きく鍛え抜いた体はチームメイトの中でも際立って見え、表情にも充実感が漲っていた。日々のトレーニングの中でもリーダーシップを全面に出し、チームのレベルアップへ向けて精力的に取り組んだ。
そうしたプラスのオーラを指揮官が見逃すはずがない。副キャプテンに指名し、1歳下でアカデミー時代からの盟友・森田晃樹キャプテンを支える立場に据えることで、谷口への大きな期待と信頼を示したのだった。谷口自身も、光栄に思って受け入れると同時に、その奥にある、自分に託された“クラブ”としての大事な役割をもしっかりと把握した。「アカデミー育ちの自分と晃樹がこういう立場に指名されたことがどういう意味を持つのか。その意味を自覚しながら務めていきたい」。
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Profile
上岡 真里江
大阪生まれ。東京育ち。大東文化大学卒業。スポーツ紙データ収集、雑誌編集アシスタント経験後、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田の公式ライターを経て、2007年より東京ヴェルディに密着。2011年からはプロ野球・西武ライオンズでも取材。『東京ヴェルディオフィシャルマッチデイプログラム』、『Lions magazine』(球団公式雑誌)、『週刊ベースボール』(ベースボール・マガジン社)などで執筆・連載中。