現在インドネシアで開かれているU-17ワールドカップには『YouTube』のチームから参戦している少し変わった選手がいる。
今大会のU-17イングランド代表は有望だ。6年前の2017年インド大会では、MFフィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)、MFコナー・ギャラガー(チェルシー)、DFマーク・ゲイ(クリスタルパレス)、MFエミール・スミス・ロウ(アーセナル)といった一流の才能をそろえて同大会で初めて世界一に輝いたが、今大会のメンバーも負けていない。
昨年、15歳181日でプレミアリーグ最年少デビューを果たしたアーセナルのMFイーサン・ヌワネリ(16歳)。今夏エバートンからチェルシーに加入したDFイシ・サミュエルズ=スミス(17歳)。その他にマンチェスターCの有望株4名や、サウサンプトン(イングランド2部)で既にリーグ戦に出場しているサミュエル・アモ=アメヤウ(17歳)など粒ぞろいだ。そんな中で一風変わったチームから選出された選手がいる。
それがGKテッド・カード(17歳)である。カードだって9歳以下のカテゴリーから名門チェルシーに所属してきたエリートなのだが、今シーズンは興味深いチームにローン移籍しているのだ。それがイングランド7部リーグに在籍する「ハッシュタグ・ユナイテッド」である。
元スペイン代表DFが共同オーナーに
ハッシュタグ・ユナイテッドはイングランド東部のエセックス州に拠点を置くセミプロのチーム。名前にある通り、クラブのエンブレムは「ハッシュタグ(#)」の形をしている。2016年にYouTuberのスペンサー・カーマイケル=ブラウンが『YouTube』の動画のために結成したチームで、当初は公式リーグに在籍せずに企業チームやマンチェスター・シティのスタッフなどと親善試合を行って動画をアップしていた。
だが、どんどん人気も高まると、2018年に当時チェルシーに所属していたスペイン代表DFセサル・アスピリクエタがクラブに投資をして共同オーナーになり、チームも公式リーグに加盟して10部リーグからスタートすることに。
すぐに9部昇格を果たすも、その後の2シーズンはコロナ禍の影響でシーズンが中断。それでも2021年から8部に上がり、昨季は同リーグを制して7部リーグまで上がってきた。現在、試合映像や舞台裏などをアップしている彼らの『YouTube』チャンネルは63万人以上の登録者を誇る。
そんなチームに今季チェルシーからローン契約で加入したのがGKカードである。チェルシーの下部組織で育ったカードは、昨季U-18プレミアリーグの他、UEFAユースリーグではミラン戦などにも出場。これまで各年代のイングランド代表に選ばれてきた有望株だが、今季は「大人の試合」で経験を積むためにローン移籍に出されることになった。そこで本人が、これまで『YouTube』で見てきたハッシュタグ・ユナイテッドを自ら選んだという。
危険な戦場で貴重な経験を積む
7部リーグは、U-17代表の他の選手たちがプレーする名門クラブのユースチームとは全く違う。セミプロの試合は肉弾戦が多く、ロングボールやクロスが頻繁に飛んでくる。GKにとっては危険な戦場だ。
事実、カードは新天地でのデビュー戦でバックパスをクリアした際に、相手FWが躊躇することなくタックルを繰り出してきて思い切り衝突した。「あんなことは今まで経験がなかった。僕はすぐに立ち上がったけど、本来は倒れたまま相手にイエローカードが出されるのを待つべきだったね」と振り返る。「試合中は痛くなかったけど、それから1週間は体が痛かったよ」
同年代のプレーヤーとは違う少し違う道を選んだカード。今年5月のU-17欧州選手権で1試合に出場してU-17W杯出場権獲得に貢献し、インドネシアで開催されている本大会のメンバーにも名を連ねた。
C組に入ったイングランドは、グループステージ開幕2連勝で3戦目を待たずに決勝トーナメント進出を決めた。ここまで出番のないカードだが、11月17日に行われる第3戦のブラジル戦では『YouTube』の守護神にも出番が回ってくるかもしれない。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。