PSVの勢いが止まらない。5季ぶり進出のCLグループステージでは2試合を残しながらアーセナルに次ぐ2位で、エールディビジでは第12節を終えて45得点を叩き出しながら全勝中。早くも2位フェイエノールトに勝ち点差7をつけ2017-18シーズン以来の王座奪還に期待が高まっているが、タイトルと縁が薄いペーター・ボス監督はついに「優勝請負人」となれるのか?ドルトムント、レバークーゼン、リヨンで解任の憂き目に遭ったクライフ主義者の采配に表れている変化に、現地オランダ在住の中田徹氏が迫る。
名将の慧眼というべきか。今季開幕直前、フース・ヒディンクはPSVの2023-24シーズンをこう占っていた。
「PSVは何人か主力選手を手放したが、(予選3回戦から勝ち上がって)CLグループステージ出場を果たすだろう。今季のチームは1986-87シーズン(※)のPSVと似通っている。当時のPSVはルート・フリットをACミランに売ったが、そのお金を再投資し、私たちはヨーロッパでも競争力のあるチームを作った。今季はチャビ・シモンス(RBライプツィヒ)を失ったが、いつまでもそのことを愚痴るべきではない」
※フリットがPSVを批判して退団したシーズン。翌季に黄金期を迎えた
11試合連続で3得点以上!3冠の87-88と遜色ない破壊力
あれからおよそ4カ月。PSVはCLグループBで2位につけ、エールディビジでは破竹の開幕12連勝で11月の国際マッチウィークに入った。
『ストゥディオ・フットボール』(NOS)というサッカートークショーで、司会が「フース、あなたの記録が破られるかもしれませんね?」と77歳の誕生日を迎えたばかりの名将に尋ねた。36年前、若き日のヒディンクが率いたPSVは開幕17連勝のロケットスタートを切ったのだ。この数字は今もなお、オランダ1部史上最高記録として残っている。
「私も今週、そのことを思い起こしていた。PSVは記録の更新を狙うことができる。あと5勝だ」(ヒディンク)
かつてのゴールシーンが映像に流れる。リベロのロナルド・クーマンが中盤までボールを持ち上がり、右SBのエリック・ヘレツがアーリークロスを入れ、ウイングのハンス・ヒルハウスがヘッドで折り返し、CFビム・キーフトがポストになって、MFジェラルド・ファネンブルグがミドルでドン!ゴールを祝う面々にMFセーレン・レアビーの姿も映った。豪華絢爛なビッグネームたちだ。
「ヘレツ、(ヤン・)ハインツェのSB陣。CB(イバン・)ニールセンのこともキチンと評価しないといけない。中盤には(ベリー・)ファン・アーレもいた。とてもバランスの取れたチームだった」(ヒディンク)
29得点のキーフトが得点王に輝き、リベロのクーマンが21得点を固め取りした伝説のチームはエールディビジ、KNVBカップ、チャンピオンズカップ(現CL)の3冠を成し遂げた。
45得点5失点というスタッツが示す通り、今季のPSVも破壊力のすさまじいチームだ。2ゴールに終わったのは開幕戦のユトレヒト戦だけ。第2節以降、11試合連続で3点以上を記録しているのだ。12連勝を記録したPECズウォレ戦(11月12日/4-0)では57分までに3点差のセーフティリードを奪うと、78分にはギャラリープレー(ファンを楽しませるショーサッカー)を披露。左SBセルジーニョ・デストがMFマリク・ティルマン、CFルーク・デ・ヨングとのダブルワンツーから局面を打開すると、軸足の後ろを通した技ありノールックパスでティルマンのゴールをお膳立て。チーム4点目の主役になった。
12節を終えた時点で51ゴールを記録した1987-88シーズンと遜色ないほど、今季のPSVは強さとエンタメ性を高いレベルで両立させている。
アヤックス戦の采配に表れるボス監督のクライフイズム
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Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。