J1リーグ戦は最終盤に差しかかり、残すところ2試合。佳境を迎えている優勝争いは首位のヴィッセル神戸と2位の横浜F・マリノスによる一騎打ちとなった。昨季王者としてリーグ連覇を目指すマリノスは、負傷者続出により重要戦力を複数失いながらも神戸を勝ち点差2ポイントで追いかけている。小池龍太、小池裕太、畠中槙之輔、加藤聖、永戸勝也とDFラインに今季中の復帰が不可能な長期離脱者を数多く抱えながら優勝争いに踏みとどまれているのは、それだけで快挙と言ってもいいだろう。
主力が相次いで離脱してもシーズン終盤までチームとしての強さを維持できている背景には、代わりにチャンスをつかんだ選手たちの成長がある。とりわけユースからトップチームに昇格して2年目のMF山根陸が見せる著しい成長ぶりには、目を見張るばかりだ。
試合に出続けることで「できること」が増えた
喜田拓也や渡辺皓太、藤田譲瑠チマに次ぐ“第4のボランチ”としてシーズンに入った山根だが、今季序盤は小池龍太の負傷によって層の薄くなった右SBでのプレーが中心だった。さらにU-20W杯出場のためチームを離れた期間もあり、リーグ前半戦は7試合の出場にとどまった。
そんな中、夏に藤田がベルギー1部のシント=トロイデンVVへ移籍したため、山根の立場は“第3のボランチ”に。中断明けの8月以降は徐々に中盤でのプレー機会が増えていった。
すると成長スピードはぐんぐん加速していく。試合をこなすたびにたくましさが増し、9月以降は選手としてひと皮もふた皮も剥けたような印象を受けた。20歳になった背番号28は、今やマリノスの中盤に欠かせない選手の1人である。
「自分自身、試合をしながらできることが増えているのを実感しています。ここをもっとというところもあるし、両方あるので、そこは嬉しいところかなと思います」
継続的に出場機会を得ることで、試合で出た成果や課題をすぐ次の試合に持ち込んで自らのパフォーマンスに反映させられるようになった。練習ですら「世代別代表とはインテンシティがまるで違う」と感じるが、公式戦はさらに別物。試合を繰り返し、毎回特徴の異なる相手と向き合うことで、山根の自信はどんどん大きくなっている。
「『あ、今のこれはいいプレーだな』とか『今はこういう意図でプレーしたのが当たったな』とか、対戦相手の違いや状況に応じてそういう小さなところが表現できるようになってきているのが、自分の中で『できることが増えてきた』という実感につながる部分です」
試合でのプレー時間が増えると、同時に出てくる課題の数や質も変わってきた。山根は充実感を滲ませながら、こう続ける。
「もっと……と感じるのは、1試合の中でまだ少しミスがあるところ。そこは気を引き締めたいし、あとはゴール前に入っていくところや、ゴールにつながるところの仕事がもう少し増えたらいいかなと思います」
「できることが増えれば自分の中で求める基準も上がってくるのは自然なことだと思うし、何かに気づく時ってやっぱり何かしらのきっかけがある。質がどうかはわからないですけど、そのきっかけが多くあるのはすごくいいことだと思います」
シティ戦で感じた「運ぶドリブル」の必要性
夏場以降の山根のプレーを見ていると、自分から局面を動かそうとする意識の向上を感じる。課題に挙げていたゴール前に入っていくプレーを増やすことはもちろん、より高いポジションを取ってラストパスを狙う姿勢、ボールロストのリスクを恐れない前向きなボール保持も目立つ。ピッチ上での存在感は、明らかに大きく強くなった。
さらに言えば、「ドリブル」が増えたような印象も受ける。データでの裏づけが難しい部分ではあるが、中盤でボールを受けてただパスを捌くことを繰り返すのではなく、自ら持ち運んで時間やスペースを生み出すようなアクションがより際立つようになった。相手をかわすドリブルではなく、マークを剥がす、あるいはボールを前に運ぶための「ドリブル」である。
これはマンチェスター・シティとの対戦をもとに制作された『J.LEAGUE TECHNICAL REPORT 2023 SUMMER』でも少し言及されている。7月下旬の試合後には渡辺も「要所要所での中盤の選手、DFの選手の運ぶドリブルが嫌でした」と話しており、他にも同様の考えを示した選手は複数いる。……
Profile
舩木 渉
1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。