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初ゴールとMOM、ディナモにフィットしてきた金子拓郎。クロアチアでの悪戦苦闘

2023.11.14

2023年7月に北海道コンサドーレ札幌からクロアチア王者のディナモ・ザグレブに期限付き移籍した金子拓郎。移籍1年目となる今季はCL予選敗退やそれに伴う監督交代があるなどチームの不調に引きずられるように苦難の時を過ごしていた。しかし、リーグ第13節のロコモティーバ戦でリーグ初ゴール、続くリーグ第14節のバラジディン戦では先発してMOMに選ばれるなど徐々に存在感を増してきている。26歳の日本人ウイングの現在地を長束恭行氏がレポートする。

 まさに「起死回生」の決勝ゴールだった。

 10月29日、クロアチアリーグ第13節の「ディナモ・ザグレブ対ロコモティーバ」。敗北濃厚のディナモはアディショナルタイム4分に追いつくと、その3分後には左からの折り返しに金子拓郎が詰めてボールをネットに押し込んだ。サポーターグループのBBBに向かって咆哮を上げると、興奮したチームメイトにもみくちゃにされた金子。ディナモは10月の公式戦ですでに4敗を喫しており、もしロコモティーバにも敗れれば優勝戦線から遠のくばかりか、セルゲイ・ヤキロビッチ監督のクビすら危うかった。クラブや指揮官を窮地から救った金子のリーグ戦初ゴールは、この夏の移籍市場で「失策」と見なされた自身のキャリアも救うことになる。

「CLレベル」から急下降した今季のディナモ

 ここ18シーズンで17度のリーグ優勝を果たしたディナモは、勝利が義務づけられた常勝軍団だ。ところが、今季はハイデュク・スプリトやリエカの後塵を拝し、欧州カップの最下層の大会「ECL」でグループ最下位に甘んじている。昨年の今頃はCLでチェルシーやミランと真っ向から戦い、国内リーグでは首位を快走していたことを思えば、その落差たるや雲泥の差だ。

 今夏のディナモで戦力補強を主導した人物が、今年3月に経営委員会のメンバーに選ばれ、スポーツディレクター同等の権限が与えられたダリオ・シミッチ。クロアチア代表で100キャップを刻んだレジェンドの彼が入閣した経緯は前回の記事に詳しく書いているが、自分に課したタスクは低予算で外国人の即戦力を発掘することだった。ウイング強化で白羽の矢が立てられたのが、7月25日にコンサドーレ札幌から買い取りオプション付きの期限付き移籍で加入したJリーグNo.1ドリブラーの呼び声高い金子拓郎だった。

 入団4日後のイストラ戦で金子は右ウイングで早くも先発デビューしてフルタイム出場(◯0-3)。前途洋々の滑り出しだったものの、すぐにディナモという「船」は嵐に見舞われ、金子もクロアチアで「遭難」してしまう。

 最初の嵐が吹いたのは8月7日のこと。サポーターのアウェイ観戦が禁止されたCL予選3回戦のAEKアテネ戦第1レグの前日、サポーターグループのBBBが密かにギリシャに入国し、市街で衝突したAEKサポーターの1人が刃物による出血多量で死亡した(※今でも100人近いBBBのメンバーが現地警察に拘束されているが、実行犯はギリシャ人とされている)。試合は延期となり、ディナモはプレーせずに帰国を余儀なくされた。日本では想像もつかない事件に金子は酷くショックを受けたという。

 試合順が入れ替わり、ディナモはホームの初戦をアディショナルタイムの失点で落とすと(8月15日、●1-2)、地獄のようなアウェイの第2レグでもアディショナルタイムに2失点を食らってしまった(8月19日、△2-2)。どちらの試合でも交代策を有効に使わず、むざむざとCL敗退を許した責任を問われてイゴール・ビシュチャン監督は解任。CL本大会出場を夢見てディナモに入団した金子は、初戦の途中出場(84分)のみに終わった。

CL敗退の翌日に解任されたビシュチャン。その2カ月後にサウジアラビアのアル・シャバブの監督に就任している

 [4-2-3-1]を採用するディナモにおいて、右ウイングのファーストチョイスはハーフスペースでの突破力が強みのダリオ・シュピキッチ。クロアチア代表CFのブルーノ・ペトコビッチが頻繁に下がってゲームメイクすることもあり、ハーフスペースからゴール前に飛び込むシュピキッチとの相性は抜群だ。金子は前方にスペースがある時のドリブル、タッチライン際の仕掛けで上回るものの、ハーフスペースでDFを背にしたプレーは不得手。「戦術ペトコビッチ」と言えるほどチームが1人に依存している分、コンビネーションの構築にはそれなりの時間が必要だ。国内勢は概してディナモ相手に低い守備ブロックを形成するだけに、ドリブルの駆け引きで勝負する金子の持ち味は生きづらい。ましてや審判の笛も接触プレーに寛容だ。……

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ディナモ・ザグレブ金子拓郎

Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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