理想形は“モダンになったバルセロナ”。エリース東京FCを関東2部優勝へ導いた、山口遼監督率いる若き指導チームの挑戦_後編
2023年度の関東サッカーリーグ2部を圧倒的な成績で制し、1部昇格を決めたエリース東京FC。今シーズンからチームを率いているのは、27歳の山口遼監督を筆頭に全員が20代というフレッシュな指導チームだ。彼らはどんなビジョンを掲げ、どのような指導を行っているのか。日本サッカーの将来を担い得る指導陣のチャレンジを追う後編。
――この指導はいわゆる創発性を促すようなアプローチだと思うのですが、「見たいサッカー」という点で、みなさんの想像を超えたプレーというのは今シーズンどのくらいあったのでしょうか?
木下「十分にあったと感じていますし、先ほども話に出ていたように選手のプレーを制限するような指示をしなかったことが大きかったと考えています。当然、プレー原則はあってそのコーチングはするのですが、それはあくまでベースの判断基準の話です。例えば、“プレッシャーを受けた際に相手と正対する”という原則があってそれは大事なのですが、その選択肢を持ったうえで、あえて正対せずに相手を食いつかせてターンしてもいい。選手の良さを生かしたプレーというのはあるので、それを殺さないようなコーチングができていたことが、予期しない創発的なプレーが見られた要因だと考えています」
高口「原則はもちろんあるんですが、伝え方の部分で否定的になったり、『こうしろ、ああしろ』という言い方だと選手の学習が進まないというのが、監督の一貫した考えとしてあります。実際、シーズン序盤に身をもって体感もしました。ですので、もちろんコミュニケーションは取るのですが、その中でたった1つの正解の選択肢を提示するような伝え方は極力避けるよう意識をしていました」
桑原「複数のポジションをこなせる選手が他のチームと比べて如実に多いと感じていて、実際、右SBの選手にケガ人が相次いだ際にボランチの選手をコンバートして、最終的にシーズンの半分くらいはその選手を起用しました。それもある意味で想像していないことでしたし、指導方法によるものだと考えています」
山口「このチームを率いるうえでのコンセプトの一つに、『絶対に自分より巧いと自信を持って言える選手を、もっと巧くしたい』というのがあるんですけど、シーズン中にミーティングで『あの選手、こんなことできるんだ』って会話を何度もしました。それこそ、シーズンの前半は試合中に立って指示をすることも多かったんですが、後半になったら置物みたいに座って見ていて、木下に『今の巧くない?』って話してたくらいです(笑)。できなかったことができるようになって、かつそれを選手たちそれぞれの持ち味の中で表現してくれることを、僕自身が楽しみにしていました。彼らが成長して興味深いプレーをたくさん見せてくれるのは楽しかったですし、そういう現象を起こす手伝いができて良かったなと思っています」
パターンなき指導におけるデータ活用法
――エリースではチームのSNSでスタッツを公開していて、データも活用しているのではないかと思うのですが、データの活用法について可能な範囲で聞かせてください。
木下「対選手に関しては、データはあくまで動画によるフィードバックの補足と言う位置づけです。その説得力を高めるようなものを適宜持ってきて提示するような形です。指導チーム間では、スカウティングの部分で前回対戦時のデータを参照したり、自チームの試合の集計を取って、改善点を整理するのに使ったりしています」
――プレーパターンを提示しない指導アプローチであるがゆえに、自身のパフォーマンスを測る指標として具体的なデータを気にする選手もいるのかなと想像するのですが、その点はいかがでしょうか?……
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Profile
久保 佑一郎
1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。