“プレミアリーグ最強ストライカー”カラム・ウィルソンが語るPK必勝法
現在のプレミアリーグで最強のストライカーは誰なのか。
この問いに、恐らく大半の人がFWアーリング・ホーランドの名前を挙げるだろう。マンチェスター・シティに所属するノルウェーの怪物は、加入1年目の昨シーズンにプレミアの最多ゴール記録を更新して得点王に輝くと、今シーズンもゴールを量産している。そう考えると、彼こそ現役の最強ストライカーなのかもしれない。
しかし、今季プレミアリーグでの決定力のデータを見ると、意外な事実が見えてくる。開幕10試合を終えた時点で、ハーランドは全10試合に先発出場し、890分間で11ゴールを決めて得点ランク首位を走っている(※編注:以下データはすべて第10節終了時点)。出場時間をゴール数で割ると「80.9分毎」に1ゴールを決めている計算となり、やはり驚異的なゴール率を誇っている。
しかし、ハーランドの「1ゴールにかかる時間」は、今季プレミアで90分以上出場している選手のなかで3位に過ぎない。彼を上回る選手が2名もいるのだ。2位はノッティンガム・フォレストのニュージーランド代表FWクリス・ウッド。彼は234分間に出場して3ゴールを決めており「78分」に1ゴールの計算となる。
限られた出場時間で高い決定力
そして同データで1位に君臨するのは、ニューカッスルのイングランド代表FWカラム・ウィルソン(31歳)だ。同じチームにFWアレクサンデル・イサクもいるため、先発出場の機会が限られているウィルソンは、今季プレミアでハーランドの半分以下となる出場時間(419分)。それでも7ゴールを決めており、驚くべきことに「59.9分」毎にゴールを決めているのである。
10月28日に行われたプレミアリーグ第10節のウォルバーハンプトン戦では、FWイサクがケガのため先発起用されると、前半のうちに2ゴールを決めてみせた。1点目はゴール前の混戦シーンで咄嗟に反応して決めたオーバーヘッドキック。これも見事だったが、それよりも感心させられたのは2点目のPKである。
微妙な判定だったため、VAR検証などもあってPKの判定から実際に蹴るまで5分近くも時間があった。その間もウィルソンは集中を切らさずに、見事に決めてみせた。実は、ウィルソンはPKでも驚異的な決定力を誇っている。ボーンマス時代を含め、これまでプレミアで17本を蹴って16本成功。15本以上蹴った選手の中で歴代3位の決定率を誇っているのだ。
ウォルバーハンプトン戦のPKは相手GKに触られながらも何とか決まったもので、ウィルソンは「自分のスタンダードからすると良いPKではなかった」と反省しつつ、ウェストハムのミカイル・アントニオとレギュラー出演している『BBC』のポッドキャストでいつもの軽快な面白トークを披露した。
「中央を狙ったけど、芝も濡れていたし、少し強く蹴り過ぎてしまったので、ダイブしかけていたGKに触られてしまった。でも、止められていても自分が真っ先にリバウンドに反応していたよ。まあ、僕にリバウンドは必要ないけどね。僕は(2テイク目を必要としない)“ワンテイク”ウィルソンさ!」
高いPK成功率は平常心のおかげ
ウィルソンがPKで抜群の決定率を誇るのは、このオンとオフの切り替えにあるのだろう。ポッドキャストではいつも冗談を言い合っているが、PKになれば真剣そのもの。ウルヴズ戦のPKについても「実際に蹴るまで5分ほどかかった。いろいろな選手が話しかけてきたけど、僕は『話しかけるな』と思って少し距離を取った。そして集中して“ゾーン”に入る努力をした」と説明する。
距離を取ったことで現地コメンタリーでは「隠れている」と指摘されたそうだが、それについては「僕が逃げ隠れしたって? 待ってくれよ。僕が隠れるのは家で問題を起こした時だけさ!」と冗談で返す。PKの判定で揉めた際、ウィルソンはPKスポットから距離を取るようにしているのだ。
今年5月のアーセナル戦で、結局VAR検証で覆るのだがニューカッスルはPKを獲得した。するとボーンマス時代のチームメイトであり、代表でも同僚のGKアーロン・ラムズデールが「どっちに蹴るんだ? こっちだろ?」と挑発しながら近づいてきたという。だが、ウィルソンは集中を保つために周囲の声をシャットアウト。それでもラムズデールが寄ってきたそうで、「僕が歩いて離れると『なんで離れるのさ』と寄ってきた。それでも僕が離れたら、彼はハーフウェイライン付近までついてきたのさ(笑)」とウィルソンは明かす。もし判定が覆らずにPKになっていたら「ゴールを決めて、ラムズデールの元に走っていき、目の前に仁王立ちしたはずさ」と笑ってみせた。
ウォルバーハンプトン戦の2ゴールで、ウィルソンはニューカッスルのプレミア歴代得点ランクで単独3位に浮上した。1位のアラン・シアラーとはまだ103点も離れているが、「ビッグ・アル(アラン・シアラーのこと)は遥か彼方だね。彼に追いつくために、ニューカッスルから6~7年の長期契約を貰わないといけないね。あり得ないだろうけどね(笑)」と31歳のストライカーは常にユーモアを忘れない。
このオン・オフの切り替えで、ウィルソンはシアラーの記録には届かないまでも、今後もゴールを重ねていくはずだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。