10月に一度は認める方向となったU-17代表チームの国際大会出場が各国の反対を受け見送られるなど、国際舞台に立てない状態が続いているロシアサッカー。そんな中でも活動を続けている国内リーグで、今シーズンから地元クラブが1部昇格を果たしたカリーニングラードのサッカー熱が高まっている。その背景には、サッカーだけではなく政治的な思惑も絡んでいるのだという。いったいどういった事情があるのか、2018年ロシアW杯時にかの地を訪れた篠崎直也氏が解説する。
ロシアの地図をよく見ると、ヨーロッパの方に飛び地になっている領土があることに気づくだろう。バルト海に面し、リトアニアとポーランドに挟まれたカリーニングラード州だ。ソ連崩壊によりバルト三国がそれぞれ独立を果たしたため、分断される形で飛び地となった。ロシア全体で見れば小さな土地ではあるが、「ヨーロッパに最も近いロシア」として、NATOの東方拡大を背景に軍事や経済などあらゆる面でその重要性が増大。ウクライナ侵攻以降は周辺国の軍備増強などにより緊張感が高まってはいるが、飛行機や船であればロシア国内の移動は以前通りで、大きな混乱はなく日常生活が続いている。
今はもう「美しく甘い思い出」となってしまった2018年のロシアW杯で、カリーニングラードは開催都市の1つとなった。サッカー熱が高く発展著しいクラスノダールのような街が落選し、地元のFCバルチカが2部リーグ所属だったカリーニングラードが選出されたことは不可解であったが、これはこの街の存在を世界にアピールしたい政府による、極めて政治的な決定だったと言えるだろう。
西と東が交錯する街
2018年6月24日、エカテリンブルクで日本対セネガルの試合が行われていたその時、筆者はカリーニングラードのパブリックビューイング会場でこの試合を観戦し、「なぜあなたはわざわざカリーニングラードに?」と驚かれながら地元テレビ局の取材を受けていた。限られた大会期間の中で、ロシアの専門家として個人的に興味のある開催都市を優先して訪れてみたいという思いがあったからである。
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Profile
篠崎 直也
1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。