J1昇格の有力候補が、とうとうプレーオフ圏内を窺う位置まで浮上してきた。昨シーズンは3位に入りながらも、プレーオフで敗退を突き付けられたファジアーノ岡山のことだ。その悔しさをエネルギーに迎えた今シーズンは、序盤からなかなか思うような結果は付いてこなかったが、熟練の将・木山隆之監督は2度の“決断”を下し、チームに勢いをもたらすことに成功した。この真夏からの反転攻勢を子細に語るのは、山陽新聞社のファジアーノ番・亀井良平だ。
ついに足を踏み入れたJ1昇格プレーオフ圏内
満員御礼のホームスタジアムが熱狂した。
9月9日、第34節・ベガルタ仙台戦。0-0で迎えた後半アディショナルタイム4分、MF田部井涼のCKのボールはクリアされるも、DF柳育崇が粘って頭で前方に落とす。これを途中出場のMFステファン・ムークが反転しながら右足で蹴り込み、土壇場で決勝ゴールを奪った。
クラブ最長タイ記録となる4連勝を達成。これで6位に浮上し、約5カ月ぶりにJ1昇格プレーオフ圏に足を踏み入れた。
昨季はクラブ史上最高順位となる3位に入り、自動昇格に手がかかった。大きな期待を受けてJ1初昇格、J2優勝を掲げた今シーズン。勝ちきれず波に乗れない苦境が続いた中、リーグ終盤戦でついに上昇気流を捉えた。
指揮官が決断した“2度”のターニングポイント
「やっぱり選手のタイプが昨年とは違う。現状、前に長いボールを入れても難しい。前線のメンバーのスタイルを考えると、やっぱり長いボールははね返される。ビルドアップをやっていかないと難しいのではと。もう今までと同じように縦に速い攻めでは得点は増えない」
リーグが後半戦に突入して間もない6月下旬の政田サッカー場。練習後の取材で就任2年目の木山隆之監督は割り切ったように言った。思ったように得点を重ねられない現状を打破すべく、よりビルドアップを重視する攻撃へ、大胆にかじを切る判断を下したのだった。
昨季は空中戦に強いオーストラリア代表FWミッチェル・デュークにロングフィードを送って敵陣に進入。ここから素早くゴールに迫るパターンを中心にゴールを積み上げた。しかし、ターゲット役だったデュークがシーズンオフにFC町田ゼルビアに移籍。そんな中で突入した今季も昨シーズンのような攻め方を見せることが目を引いた。タレントの特長に合わない攻撃は行き詰まる。チームは2022年の「残像」に苦しんだと言える。
最終ラインからパスをつないで前進するスタイルにシフトチェンジしたチームは愚直にトレーニング。木山監督がピッチで細かく指示を送る中、一人一人が正しい立ち位置を取り、ボールを何度も前に進めた。試合では臆することなくアウトプット。トライアンドエラーを繰り返すことでスムーズさが増した。
8月にはボールを保持しながら意図的にフィニッシュに持ち込めるようになり、相手を押し込む時間も格段に増加。ゴールの雰囲気を漂わせるチームに戻ったのだった。
ビルドアップに加え、全体をコンパクトにして前から奪いにいく「攻めのディフェンス」にもさらにこだわった。木山監督は大きな決断を下す。……
Profile
亀井 良平(山陽新聞社)
1986年、岡山県生まれ。玉野光南高から立命館大を経て、2010年に山陽新聞社に入社。本社運動部に所属し、これまで高校野球などを担当。2018年からファジアーノ岡山の担当記者となり、現地取材を続ける。過去に前監督・有馬賢二の1年間を追った「J指揮官の実像」などを連載。