中国・杭州で行われたアジア大会。コロナ禍による1年延期を経た大陸王者決定戦は、女子W杯終了直後という女子サッカー界にとって何とも微妙な時期での開催となってしまった。W杯メンバーは当初全員が不参加の予定だったが、1人だけ例外的な“連戦”となった選手がいる。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースのFW千葉玲海菜。「千葉の千葉」である。
北朝鮮を破って金メダル
アジア大会女子サッカー決勝戦。試合開始直後から続く北朝鮮女子代表の猛攻を凌ぎ続け、効果的な攻めで後半に3-1と勝ち越した日本女子代表は、72分にFW千葉玲海菜のゴールでさらにリードを広げ、4-1とした。
左SBの小山史乃観から前方に出たボールに対し、前線の千葉は自らが進む方向に左足アウトサイドで絶妙なトラップ。そのままスピードを上げてドリブルを始めると、千葉の背中を追う北朝鮮DFをぐんぐんと引き離していく。ペナルティエリア内左に進入すると、ゴール前の状況を目視で確認した後、左足を強振。北朝鮮GKの右手をかすめながらゴール左上に決まったシュートはゴールネットを力強く揺らし、千葉を中心に日本選手の歓喜の輪が広がった。
ボールを持ったら猛然とゴールを目指す千葉の真骨頂とも言える一発であり、日本の金メダルを決定づけるゴールだった。
待望の金メダルを首にかけてもらった千葉は、試合後の取材エリアで「アジアチャンピオンを目指してきた中で、しっかりこの色のメダルを取れて本当に嬉しい。金メダルは本当に重いですね」と、達成感に満ちた表情を浮かべた。
日本が今大会で戦った6試合のうち千葉は5試合に出場し、そのすべてでゴールを決めている。「出た試合は全部(得点を)決めたいと思っていた」と有言実行、チーム最多7得点をマークすることとなった。
時間帯によって両サイドやCFの攻撃的ポジションをこなしつつ、なでしこジャパン予備軍と言える『即席のセカンドチーム』を金メダルに押し上げる原動力となった。
なでしこの卵、藤枝から筑波へ
千葉は数々のなでしこジャパン選手やWEリーガーを輩出している静岡県の名門・藤枝順心高校の出身。キャプテンを務め、当時はチーム事情もあってボランチの位置で攻守に活躍した。卒業直前の全日本高等学校女子サッカー選手権大会では無失点優勝に貢献し、その後に進学した筑波大学(茨城県)では1年生の時からFWとして出場を重ねている。……
Profile
馬見新 拓郎
1984年2月8日、鹿児島県阿久根市出身。フリーライター。携帯電話公式サッカーサイト『オーレ!ニッポン』編集部を経て、2005年からフリーに。以後、女子サッカーを中心に2011年女子W杯、2012年ロンドン五輪などを取材。『サッカーマガジン』『エル・ゴラッソ』等に寄稿。既刊本に『なでしこジャパン 壁をこえる奇跡の言葉128』(二見書房)。