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文化と利益の衝突。「ブラックアウト」をめぐる論争からイングランドサッカーの未来を占う

2023.10.14

昨年10月に英『BBC』によって大々的に報じられた「ブラックアウト」の廃止検討。イングランド国内での試合放送事情の根幹を成すローカルルールの是非について、それから1年が経った今どのような議論が進んでいるのか。イングランドサッカーの未来を左右するローカルルールの現状から今後まで、リバプール大学でフットボール産業MBAを学ぶ重田良輔氏に解説してもらった。

 世界最高峰と謳われるイングリッシュ・プレミアリーグ(EPL)を擁する“フットボールの母国”イングランドにおいて、60年以上守られているローカルルール「ブラックアウト」の存在をご存知だろうか。

 イングランド国内で行われる全カテゴリーの土曜15時キックオフの試合のテレビ放送を禁じるこの規制は、伝統深いローカルクラブや子供から大人までのアマチュアレベルなど、フットボール文化を守っていくために設けられており、オンライン配信やディレイ放送などテレビ以外での視聴が容易になった今でもしっかりと遵守されている。

 しかし現地ではブラックアウトを廃止して全試合放送すべきという意見もあり、その有無について揺れているのが現状と言えるだろう。本稿ではその現状から今後の展開までを、歴史的・商業的視点から解説する。

ローカルクラブを守るために存在する「ブラックアウト」

 ブラックアウトの起源は1960年代と言われている。当時のバーンリー会長ボブ・ロードの一声から始まって正式に制定されたのは1987年、英1部フットボールリーグ(現在のEPL)がITVと正式に放映権契約を締結した時のことであった。UEFA規則第48条によってサポートされているこのルールは、イングランド(スコットランドを含む)で14時45分から17時15分までに行われるすべての試合のライブ放送を禁止。全カテゴリーのスタジアムの観客動員数とグラスルーツの試合の保護に努めている。

 また、本ルールは国外の試合も対象とされているため、イギリス時間で14時45分から17時15分までに行われる海外リーグ戦も同様に適用対象となる。例えば、17時キックオフのラ・リーガ(スペイン)、セリエA(イタリア)などの試合も、最初の15分は放送されないのだ。

 このように厳しく取り締まっている理由として挙げられるのは、イングランドフットボールの伝統だ。イングランドでは、ユースカテゴリーからシニア、アマチュアまですべてのカテゴリーが土曜15時から試合を行う慣習がある。これはイングランド人の日常の一部であり、この文化こそがこの国のフットボールの発展の一翼を担っていると言えるだろう。

 例えば同じ時間にマンチェスター・シティ対リバプールのようなビッグゲームをテレビ放送するとどうなるか。本来試合をしているはずの子供たちはテレビやスマートフォンにかじりつき、大人たちもパブに足を運んで友人とともに観戦しながら乾杯するかもしれない。日頃からローカルクラブ(主に下部リーグに所属する)をサポートするファンは近くのスタジアムに足を運ぶのではなく、より白熱したEPLやEFL(イングリッシュ・フットボールリーグ/英2~4部)の試合を家で見てしまうだろう。そうした事態を避けてフットボール人口を維持するため、下部リーグをはじめとするローカルクラブを守っていくために存在しているのがブラックアウトという取り決めだ。

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 しかしながらデジタル全盛期の時代において、「ブラックアウトは時代遅れではないか」という意見が存在するのもまた事実である。……

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Profile

重田 良輔

1991年生まれ。兵庫県出身。商社を7年間勤めたのち、2022年9月よりリバプール大学大学院Football Industries MBA(FIMBA)を受講。50試合以上の現地観戦とFIMBAでの勉学からなるイングリッシュフットボールカルチャーの理解に基づき、フットボールクラブのブランディング、マーケティングについてフォーカスします。リバプールファン。ホームスタジアムまでは徒歩で行くことをおすすめします。

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