J2第38節で3位・清水エスパルスは勝ち点1差の2位・ジュビロ磐田を本拠IAIスタジアム日本平で迎え撃つ。J1自動昇格圏浮上を懸けて戦う“静岡ダービー”を前に、4月に就任した秋葉忠宏監督の下でV字回復を遂げたオレンジ軍団の「超攻撃的」サッカーの意味を、清水サポーターで戦術ブロガーの猫煮小判氏が言語化する。
ブレ過ぎたゼ・リカルド前監督の功罪。
秋葉忠宏が指揮官に就任してから半年余りを経て、J1昇格プレーオフ圏内のJ2・3位に浮上した清水エスパルス。クラブの戦力や規模を考えればようやく“本来の位置”に戻ってきたわけだが、開幕7試合で白星なし(5分2敗)の19位と完全にスタートダッシュに失敗したのは計算外であっただろう。
2023シーズンをスタートするにあたり、報道を通じてコメントを読む限りゼ・リカルド前監督は「ポゼッション」をキーワードにしているようだった。そのコンセプトはピッチ上でも垣間見え、ボールを保持しながら横幅と深さ両方を限界まで広げ、引いて守ってくる相手の守備ブロックを目一杯開かせる。広げた網目の中でパスを繋ぎ、相手を揺さぶりながら崩していく狙いがあった。
ここでおそらくキーマンとなるはずだったのが、その開けた守備網で類まれなテクニックとアイディアを発揮できる乾貴士である。秋葉現体制で[4-2-3-1]のトップ下として定着した感のある乾だが、それまで左ウイングを主戦場としていた元日本代表FWを2列目中央で使う構想は、リカルド前体制下でもすでに見え隠れしていた。
しかし残念ながら、その乾は2月頭にプレシーズン中の練習試合で負傷し、およそ全治1カ月半の離脱が決定。実際にはそれよりも早く戦線に戻ってきたが、予定よりだいぶ駆け足の復帰になったことから、その後の起用に慎重になったのは当然ともいえる。
乾を欠いて迎えたJ2開幕節、水戸ホーリーホック戦はトップ下を置かない[3-4-3]でスタートも前半だけで見切りをつけ、その後はお馴染みの[4-4-2]に回帰。しかしテクニシャン不在で出口の見つからないビルドアップには2トップの一角からディサロ燦シルヴァーノが加わらざるを得ず、人材難も相まって北川航也が右サイドハーフにコンバートされる。選手起用法とチーム戦術のミスマッチが重なって彼らFW陣が本業とするゴール前での仕事に集中できなくなった結果、清水は7試合でわずか4ゴールしか奪えず、昨季のJ1得点王であるチアゴ・サンタナを擁しながらまさかの得点力不足に悩まされる中、リカルド体制は早々に幕を閉じた。
この前任者の功罪はブレ過ぎたことだ。昨季途中の就任早々に見せたまるで現在のブライトンのように中盤を空洞化した疑似カウンターに前線のタレントを生かしたシンプルな速攻、そして最後に見せたボールポゼッションしてのハーフコートゲーム。わずか半年で見せた戦術の幅こそ広いが1つでも上手くいかなくなった途端、すべてがなかったかのようにガラリとリセットしてしまうのは、とりわけ清水のように長年スタイルが根づいていないクラブにおいては相性が悪かった。言い換えれば、後任に求められるのは明確な方向性だったということだ。
属人的なビルドアップで光る原とカルリーニョス
秋葉監督就任以降の清水は一転してハイペースに勝ち点を積み上げている。その秘密はまさしく明確な戦術的方向性を打ち出していることだろう。新指揮官のフィロソフィはその口から発せられる言葉にも表れている。
例えば「「バックパス禁止」「ビルドアップに興味なし」そして衝撃の坊主姿――清水エスパルスを獰猛なる戦闘集団に変貌させた『秋葉イズム』とは何か?」で、水戸監督時代に「ビルドアップには興味がない」とよく話していたことが明かされているが、清水でも組み立てに特別な工夫は施していない。シンプルに縦への意識が強く、スペースがあればそこを使って素早く前へと運んでいく。
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Profile
猫煮小判
静岡県静岡市…いや、静岡県清水市に生まれ育った自称次郎長イズムの正統後継者。好きな食べ物はもつカレー、好きな漫画はちびまる子ちゃん、尊敬している人は春風亭昇太師匠。そして、1番好きなサッカーチームは清水エスパルス!という、富士山は静岡の物でもの山梨の物でもない日本の物協会会長の猫煮小判です。君が清水エスパルスを見ている時、清水エスパルスも君を見ているのだ。