トッテナムは「Spursy(スパージー)」を克服したのか? そもそも「スパージー」は存在したのか?
不屈の闘志で2度のビハインドを追い付く
トッテナムは9月24日に行われたプレミアリーグ第6節のアーセナル戦で不屈の闘志を見せつけた。2度もリードを奪われながら、そのたびに今季からキャプテンを務める韓国代表FWソン・フンミンがネットを揺らして2-2の引き分けに持ち込んだのである。ゴール期待値を見ると、アーセナルの「2.03」に対してスパーズは「1.46」と下回り、試合序盤はアーセナルのハイプレスに苦しめられる場面が目立った。それでもスパーズは屈しなかったのである。
トッテナムにとって、アーセナルとのアウェイでのリーグ戦は直近30試合でわずかに1勝(11分け18敗)しかできていない最大の鬼門だった。そんな一戦で、開始30分間のうちに15回も自陣でボールを失ったにもかかわらず、彼らは自分たちのスタイルを信じて最後尾からのビルドアップを続けた。そしてOGとPKという不運な形で2度もリードを許しても、決して諦めなかったのだ。
これにはアーセナルのOBも、宿敵の精神力を称えざるを得なかった。アーセナルでクラブ歴代2位の得点数を誇り、引退後も“アーセナル党”の解説者として活動するイアン・ライト氏も「今までとは違うトッテナムだ。彼らは自分たちのことをかなり信じている。この引き分けにより、さらに自信を深めるはずだ」と『BBC』のハイライト番組で認めた。
伝統的に、トッテナムは“勝負弱い”と見られてきた。そのため肝心なところで失敗することを「スパージー」と呼ぶようになり、その言葉がフットボール界で定着した。2001年にはマンチェスター・ユナイテッドを相手に前半のうちに3-0のリードを奪いながら、後半に5失点を喫して3-5で敗れたこともある。事実、トッテナムは1992年に発足されたプレミアリーグの歴史において、リードした試合で「451ポイント」も取りこぼしており、これはリーグ最多記録なのだ。
実は勝負強いトッテナム
だが、今季のスパーズはアンジェ・ポステコグルー新監督の下で軽快なパスワークを展開してリーグ戦で無敗を維持しており、アーセナル戦で追いついただけでなく、第5節には格下シェフィールド・ユナイテッドに先制を許しながら後半追加タイムに2得点して逆転勝利を収めた。今季プレミアでリードされた試合の結果を見ると、最も勝ち点を稼いでいるのは3度の逆転勝利を収めて9ポイントを獲得しているリバプールだ。彼らに次いで2番目にくるのが、一度はリードされた試合で2勝2分け0敗の結果を残しているトッテナム(8ポイント)なのだ。やはり「今季のスパーズは違う」と感じてしまう。
しかし、プレミアリーグ公式HPによると、劣勢の状況を跳ね返す“復活力”は今に始まったことではないという。31年のプレミアリーグ史において、リードされた試合で獲得した勝ち点数を見ると、やはり“ファーギータイム”で多くのポイントを取得したユナイテッドが1位……かと思いきや、彼らは2位だという。427ポイントを稼いだユナイテッドを抑えて1位の記録を持つのが、実はスパーズ(428ポイント)なのである。
新加入ながらすっかりチームの攻撃の核として活躍するMFジェイムズ・マディソンは「トッテナムについて『軟弱』とか『スパージー』とかくだらないことを言う人もいるが、今季は違うかもね」と、FWソン・フンミンの2ゴールをアシストしたアーセナル戦後に語った。
今季のスパーズは確かに違う。だが“スパージー克服”に関しては、そもそも“スパージー”の妥当性を検証する必要があるのかもしれない。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。