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各所でM&Aが進行する昨今、市民クラブはどう生きるか?「ブレることなくクラブの価値を高めていくことが大事」――現役Jクラブ社長に肌感覚を聞く【栃木SC・橋本大輔社長インタビュー】

2023.09.27

ひと昔前は市民クラブの仲間だったFC町田ゼルビアは周知のとおり株式会社サイバーエージェントが経営参画したことで潤沢な資金を手にし、J1昇格争いの筆頭候補に躍り出ている。今やJ1クラブのほとんど、J2も半分以上は責任企業といえる企業がクラブを支えており、純粋な市民クラブと言えるクラブは数えるほどになった。その浸食ぶりは今やJ3にも波及しつつある。今後、市民クラブはどう生き残ればいいのだろう、という漠とした疑問に対して、市民クラブを陣頭する現役社長はどう考えているのか。今回、J2栃木SCの橋本大輔社長にざっくりと色々な話を聞いてみた。

DAZNの放映権獲得はJクラブにどう影響したか?

――今季のJ2を見てもわかるとおり、FC町田ゼルビアは責任企業と言える企業がついてから着実にチームを強化し、J2で猛威を奮っています。今やJ2でも純粋な市民クラブといえるクラブは半分以下になってきましたが、その中で、いかにJリーグに生き残るかは大きなテーマだと思います。橋本大輔社長が栃木SCの代表取締役社長に就任したのが2016年の初頭。あれからJ3やJ2といったカテゴリーで色々と感じられてきたことがあると思うので、この5年間のJクラブ経営を取り巻く時代の移り変わり、なども踏まえながらその肌感覚を聞いてみたいと今回のインタビューを企画しました。

J2・第36節終了時点で消化試合が1試合少ないながらも2位の清水エスパルスに7ポイント差をつけて首位に立つFC町田ゼルビア(Photo : Takahiro Fujii)

 「了解しました。企画テーマをもらったときに、なかなか難しいテーマだと思ったし、他のJクラブの社長さんたちはどう考えているのか、僕自身もすごく気になるテーマですね。質問を受けながら色々と思案してみたいと思っています」

――ありがとうございます。まず、インタビューのとっかかりとして一つ聞いてみたいことがあるのですが、もし検討違いだったらごめんなさい。直近5年を振り返ってみたときに、2017年に動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」がJリーグの放映権を獲得したという大きな出来事があり、各Jクラブは以前に比べて多額の配分金や場合によっては賞金も手にできるようになった、という変化が起きたことについてです。栃木SCは2016、17年の2シーズンをJ3で戦ったのち、18年シーズンにJ2に復帰したのですが、そのときに“J2は分厚くなったなあ”と感じました。各クラブが“DAZNマネー”も相まってチーム強化費に掛ける資金を増やしていて、カテゴリー間の差が広がっている、これはしがみついていかないとまずいな、と感じた次第です。この点について、現場の肌感覚から聞いてみたいと思っています。

 「それでいえば、DAZNが入ってきた変化について実感はそこまでないんです。僕らがJ3に落ちた2016年のときはまだ『スカパー!』さんが放映権を持っていて、配分金もJ3の場合は1500万円、今でいう『降格救済金』もないところからスタートしました。翌2017年のJ3の2年目からDAZNでの配信がスタートし、J3各クラブがもらえる配分金が3千万円にアップしましたが、多少増えたという感覚です。そもそも配分金はいただくもので、クラブ経営者としては『どうなるかわからない収入』として当てにし過ぎてはいけないものなのかなと思っています。もちろん栃木SCの場合は総収入から考える配分金比率は高いので、重要な収入というのは間違いないです。ただ、Jリーグの放送がネット配信になったことは大きな変化だと感じました。僕自身がテレビよりもデバイスを使ってスポーツを見る機会も多く、スポーツがすごく身近になったなと。DAZNの配信が始まったことによる変化、実感はその点が大きいです。

 また、J2とJ3をまたぐように所属したことで、各カテゴリーの事業面での大きな違いは感じてきました。例えば、あくまでも当時の話ですが、toCの分野においてJ3とJ2では全然異なると感じたし、栃木SCがJ3に2年間いたことによって取り組みが遅れたと感じました。いわゆるマーケティング面です。僕らはJ3に降格したときに、システムの導入費用が掛かることもあり、デジタルマーケティングに取り組めなかった事情があります。J3では予算を縮小せざるを得ない状況があり、かつ栃木SCは過去に債務超過の危機に陥った経緯もあったため、“J2昇格”が至上命題と同時に、地域がクラブ運営に不安になったり不信感が強くなったりしないように“黒字”というミッションもありました。短期的に達成しないといけないこの2つのミッションを考えると、長期的な目で取り組まないといけないようなマーケティング面はどうしても後回しにするほかなかったんです」

――その点で、J2に居続けているクラブは先に進んでいたと。

 「その感覚はありました。事業面でレベルが異なることに取り組んでいるなと。スタジアムのイベント関連について、僕らはJ3時代から拘ってクオリティを高く保ってやろうしていましたが、J2各クラブのそれと比べると稼ぐ意識が全然違うんです。各クラブのフロントの皆さんと普通に会話しているときの感覚が異なり、見ている視点、実際の取り組み、それらがすべて違うなと感じました」

――そんなに違うんですね。

 「今はそこまで変わらないと思いますが、当時はですよ。J2とJ3ではホームゲームのイベント関連でクラブが接することになるファン・サポーターの人数、それに関わる金額や規模が異なります。その差がこんなにもあるんだなと。おそらくJ2からJ1にいけばまた大きな違いを感じるのだと思います。今季もJ1を経験しているクラブとの対戦の時にスタジアムを訪問させてもらって、現時点でホーム戦の運営、スタジアムの事業面についてはそこまで差があるとは思っていません。おそらくそういったクラブがJ1のカテゴリーにいるときにやることと、J2のカテゴリーにいるときにやることの規模を変えているのだろうと思います」……

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J2リーグ栃木SC

Profile

鈴木 康浩

1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。

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