9月から始まった2026年W杯南米地区予選(全18節)。マルセロ・ビエルサ監督率いるウルグアイ代表は、8日にホームのチリ戦で3-1の勝利を収めた後、12日に高地キトで行われたエクアドル戦では2-1の敗北を喫し、1勝1敗のスタートとなった。
5月に就任したばかりの新監督にとっては、6月の親善試合(ニカラグア戦とキューバ戦)を経て、わずか3試合目で迎えた初めての公式戦。課題はあるものの、「ウルグアイ人選手の天性である攻守の素早いトランジション」(ビエルサ談)を活かしながら攻撃的サッカーを目指すチームの方向性が明確になり、可能性と将来性を感じさせる内容だったと言っていいだろう。
注目された招集メンバーは、平均年齢が23.6歳と非常に若く、30代はGKのセルヒオ・ロチェ(30歳)のみ。カタールW杯に出場した26人のうち8人が30歳以上(うちGK2人を含む6人が35歳以上)、平均年齢は27.8歳だったことを考慮した場合、かなり思い切った世代交代を図ったように感じられるかもしれないが、過去に監督を務めたアルゼンチン代表とチリ代表において、最初の公式戦は30代の選手を1人だけに絞る若手中心のメンバーで挑んでいたビエルサだけに、ウルグアイ代表でも今回は同様の選考基準が起用される可能性は十分にあった。
ところが、そんな前例を知るや知らずや、ウルグアイでは代表チームのレジェンドたち、特にルイス・スアレス(グレミオ)が招集外となったことに関して論争が巻き起こり、それに関するビエルサのコメントがさらに火種となって一部のメディアが監督を強く非難。一般の人々、特にスアレスの古巣ナシオナルのサポーター(2018年の統計によると国民の33%を占める)からも批判が噴出する結果を招いたのである。
スアレスやカバーニとなぜ対話しなかった?
ビエルサに対する批判は、レジェンドたちが招集されなかったこと自体が要因となったわけではない。
5月に行われた就任会見で、『エル・パイス』紙の記者ファン・パブロ・ロメロから「スアレスや(エディンソン・)カバーニ、(フェルナンド・)ムスレラをはじめとするレジェンドたちとすでに話をしたか。彼らを起用する考えはあるか、それともこの機に世代交代を進めるか」と聞かれたビエルサは、次のように答えていた。
「彼らとはまだ話していません。対話からお互いの話に耳を傾け、その上で起用するかどうかを決めるというのは避けられない過程だと思うので、現時点では何も決めていません。実績のあるウルグアイ人選手に関わるすべての決断を、彼らの意見を聞かずに下すことなどできません。私はアイドル(という存在)をとても尊敬しています。なぜならアイドルは人々の遺産であり、貧しい人々にとってのかけがえのない宝なのです。ですから、故意にアイドルを傷つけるようなことは絶対にしません」
初代世界チャンピオン、そして南米屈指のサッカー大国として揺るがないプライドを抱くウルグアイの人々にとって代表チームのスターはまさに宝であり、外国人監督が彼らをどのように扱うかは国民との信頼関係を築く上で重要なポイントとなる。だがその後、新監督とレジェンドたちとの対話が実現しないまま、彼らがチリ戦とエクアドル戦の予備登録メンバーに招集されなかったことが発覚。ビエルサは予備登録メンバーを絶対に公表しないポリシーを貫いているため、何らかのルートから情報が外部に伝わったらしい。
9月2日に開かれたW杯予選前の会見でこの件について訊ねられたビエルサは、スアレスらと話をしていないことを明らかにし、「その情報(が流れたこと)によって私は公の場で嘘つき呼ばわりされました」と前置きしてから、対話がなかった理由について「カバーニとスアレスがともに“自分にとって代表チームでのキャリアは終わっていない”と公言したから」と説明した。
「私が(就任会見で)彼らと話をしたいと言ったのは、まず彼らの考えを聞き、その上で私の意見を聞いてもらうためでした。でもカバーニとスアレスに代表チームでのキャリアを続ける意思があり、招集可能であることが明らかになった以上、対話の必要はないと判断したのです」
「分析能力がないと論争が活発化するのです。論争というものは…」
……
Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。