マルチクラブ・オーナーシップ(MCO)は一歩間違えれば、八百長やグレーな移籍の温床になる危険がある。そこでFIFAやUEFAなどのステークホルダーはどのようなルールを設けるべきなのか、山崎卓也弁護士に法務面からMCO規制の線引きを解説してもらおう。
※『フットボリスタ第87号』から一部加筆・修正して掲載。
シティ・フットボール・グループに代表されるマルチクラブ・オーナーシップ(MCO)の隆盛は、近年の加速する商業化の象徴的現象とも言えるが、MCO自体は決して新しいものではなく、それに対する規制も比較的古くから存在してきた。ただし、当然のことながらMCO そのものが一般的に規制されているわけではなく、規制はMCO によって「不当な影響力」が獲得される場合に限られている。
あるクラブが他のクラブに対して影響力を持つ場合は、MCOに限らず、クラブ間同士の業務提携など様々な形で存在するが、当然のことながらその影響力すべてが大小を問わず規制されるわけではない。では、どのような場合が「不当な」影響力として規制されるのか。これを理解することはMCOだけでなく、近年FIFAなどが行っている第三者保有(TPO)等の禁止や代理人規制などにおいて、フットボール界が「どのような影響力」を問題視し、規制しようとしているのかの動きを理解する上でも、重要なことと言える。
「試合結果」への影響力
MCOに対する規制の最も中心的で原初的なものは、それを通じた試合結果への影響力の規制である。これはどのリーグ、大会でも取り入れられている規制の観点であり、例えばJリーグ規約29条や30条にもある、他クラブの株式保有や金銭的利害関係保有の禁止と同様のものである。簡単に言えば、八百長などの不正な試合結果の操作を防止する観点からの規制である。
これは同じリーグ内であれば、試合内容の公正さという観点から極めて当然の規制として受け入れられるが、いわゆるMCOは同じリーグに属さない複数のクラブの保有が典型なので、その場合はCLなど国際レベルの大会での規制として問題となる。UEFAは1998年に当時問題となっていた英国のENICグループによるMCO(スラビア・プラハ、AEKアテネなどを保有)を受けて、試合結果への不当な影響力を防止する観点から上記同様の規制を導入。実際にAEKアテネのUEFA カップ出場を認めない決定を下している。
そしてこの規制は、のちにRBライプツィヒと、レッドブル・ザルツブルクが17-18シーズンのCL 出場権を得た際に再び問題となり、UEFAによって“decisive influence”(決定的な影響力)の存否が審理された結果、結局規制には違反しないということで双方の出場が認められる結果となっている。
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Profile
山崎 卓也
1997年の弁護士登録後、2001年にField-R法律事務所を設立し、スポーツ、エンターテインメント業界に関する法務を主な取扱分野として活動。現在、ロンドンを本拠とし、スポーツ仲裁裁判所(CAS)仲裁人 、国際プロサッカー選手会( FIFPRO)アジア支部代表、世界選手会(World Players)理事、日本スポーツ法学会理事、スポーツビジネスアカデミー(SBA)理事、英国スポーツ法サイト『LawInSport』編集委員、フランスのサッカー法サイト『Football Legal』学術委員などを務める。主な著書に『Sports Law in Japan』(Kluwer Law International)など。