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与えるのは安全ではなく恐怖。ドイツの“過剰な”スタジアム警備問題

2023.09.22

長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。その国内で注目のトピックスを、気鋭の現地ジャーナリストがピックアップし独自に背景や争点を論説する。今回はファンに対する警察の暴力への批判を取り上げる。

※『フットボリスタ第98号』より掲載。

 ドイツのサッカーファンの一部にとって、スタジアム観戦の目的はピッチの上での出来事を目撃することだけでなく、“限界を試すこと”でもある。例えば、コロナ禍終焉以降、増えている発煙筒の使用。カメラに写っても特定されないように、大きなフラッグの裏に隠れるようにして服を着替えて覆面を被るなど、違法になるか否かスレスレのラインを見極めようとしている人もいる。ウルトラスのいる一角ではドラッグが消費され暴力を好む過激な者もいて、彼らにとって最大の敵は相手チームではなく警察である。そして、特に集団で行動するアウェイファンをコントロールしなければならない警察との間で、よく揉めごとが起こっている。

 ドイツ研究振興協会の調査プロジェクトの一環として警察による暴力の被害者3300人と専門家60人に聞き取り調査が行われた結果、一般にはほとんど認識されていない問題が可視化された。サッカーファンは、ドイツで警察による暴力を2番目に多く受けている集団なのだという。

 だが、そうした事件の大半は、警察を訴える人がほとんどいないため日の目を見ることはない。仮に警官を訴えたとしても、ほぼほぼ不起訴になることを誰もが知っているからである。警官が暴力で起訴される確率はわずか2%。加害者を特定できないことが多く、仮に特定できたとしても同僚の発言で冤罪となるケースがほとんど。カメラに写り、加害者がわかっているにもかかわらず罰せられないことさえある。「警官による違法な暴力と不適切な法的処分は、サッカーの試合でも問題になっている」と書くのは『11 Freunde』誌。ドイツでは、サッカーの試合で警官による暴力が疑われるケースが毎年1000件以上に上るそうだ。

写真は昨季のドイツ2部昇降格プレーオフ、バースバーデン対ビーレフェルトより。4失点目を喫したアウェイチームのサポーターがピッチに大量の発煙筒を投げ入れて暴徒化したため、試合が一時中断される事態に陥った

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Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。

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