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“ピッチ上のコーチ”ことアダム・ララーナ、現役ながらU-21代表の指導へ

2023.09.18

 好調ブライトンのMFが、セカンドキャリアを意識して指導者の経験を積み始めたようだ。

 日本代表MF三笘薫を擁してプレミアリーグで好調を維持するブライトン。そんなクラブに所属するベテランMF、アダム・ララーナ(35歳)が、今月の代表ウィークでU-21イングランド代表に参加したという。バリバリの現役選手がシーズン中に指導者として世代別代表の活動に参加したのだ。

コロナ禍で際立ったコーチング能力

 足元の技術に優れたララーナは、リーダーシップに秀でた選手としても知られる。サウサンプトンの下部組織で育ったMFは、24歳にして同チームの主将を任されてチームをけん引すると、2014年にリバプールに引き抜かれ、6シーズンに渡ってアンフィールドで活躍した。そして2020年からは馴染みあるイングランド南岸に戻ってブライトンでプレーしており、同クラブでも主将ルイス・ダンクが不在の際には腕章を巻くことがある。

 イングランド代表34キャップを有するララーナは、若い頃から柔らかいボールタッチと想像力豊かなプレーが魅力の選手として知られてきた。そして彼は、そのプレースタイルからは少し想像しづらいが「ピッチ上のコーチ」でもあるのだ。昨年9月、グレアム・ポッター前監督をチェルシーに引き抜かれたブライトンは、後任にロベルト・デ・ゼルビを据えるまでの期間、臨時体制としてU-23チームを率いていたアンドリュー・クロフトを暫定監督に据えて、アシスタントコーチを現役選手のララーナに任せたのである。結局、デ・ゼルビが新監督に就任してコーチも連れてきたためララーナは指導者としてベンチに座ることはなかったが、それくらいフロントからの信頼も厚いのだ。

 ブライトンのポール・バーバーCEOがララーナのコーチング能力に気づいたのは、コロナ禍がきっかけだという。未曽有の状況下でプレミアリーグは1年ほど無観客の試合が続き、静まり返ったスタジアムには選手やコーチの声が響いた。その時に「こんなにピッチ上でコーチングしていたんだ」とララーナのリーダーシップに気づかされたという。

 そんなベテランMFが本格的にセカンドキャリアを見据えて動き出した。9月16日に行われたプレミアリーグ第5節のマンチェスター・ユナイテッド戦に先発出場して3-1の勝利に貢献するなど、まだ選手としても活躍しているララーナだが、代表ウィーク中にU-21イングランド代表に合流して若手選手を指導したのである。

周囲のサポートで指導が実現

 「素晴らしい1週間を過ごせた」と35歳のララーナはクラブ公式HPに語っている。U-21イングランド代表は今夏のU-21欧州選手権を制し、今は2025年大会の予選がスタートしたところ。9月11日に行われた試合も、チェルシーのMFコール・パーマーの得点などでルクセンブルクを3-0で圧倒した。2021年から同チームを率いているのは元エバートンのリー・カーズリーで、アシスタントにはアーセナルやチェルシーで活躍したアシュリー・コールもいる。そんなチームでララーナは練習のサポートをして「自分の今後の人生を垣間見ることができた」と喜んだ。

 現役選手がU-21代表のコーチを務めるという特例が認められたのは、周囲の関係者のおかけだ。ブライトンのテクニカルダイレクターを務めるデイビッド・ウィアは元エバートンの選手で、U-21代表のカーズリー監督とは旧知の仲のため、こういった機会を用意してくれたという。ララーナは、ウィアやクラブ関係者への感謝を口にした際にデ・ゼルビ監督へのお礼も忘れなかった。

 ブライトンの選手たちが口をそろえて「毎日勉強になる」と称賛する指揮官は、優れた戦術家というだけでなく、選手に慕われる指導者だ。ララーナも「ロベルト(デ・ゼルビ監督)は僕がU-21代表に合流することを許してくれただけでなく、僕にこういう機会が与えられたことを興奮気味に喜んでくれたんだ」と指揮官に感謝した。

 生粋のリーダーシップを持ち、デ・ゼルビという世界的な戦術家の下で戦術眼を育み、現役時代からコーチの経験を積むアダム・ララーナ。“ピッチ上のコーチ”は、いつの日か一流の監督としてプレミアリーグのベンチに座ることだろう。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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