クラブレコードを更新する推定移籍金1億500万ポンドで今夏、アーセナルに加入したデクラン・ライス。大きな期待を背負うイングランド代表MFの、組織守備の中でこそ真価が発揮されるその凄みとは? チームのスタイルによりフィットするために求められる進化とは? 東大ア式蹴球部テクニカルユニットの高口英成氏が分析する。
24歳にして代表キャップは40を超え、所属クラブでもスタメンの座を揺るぎないものとしていたデクラン・ライスの去就はここ数年、移籍市場での大きな関心事の1つであった。多くのビッグクラブが興味を寄せ、王者マンチェスター・シティも獲得に本腰を入れたと取り沙汰された彼を射止めたのは、昨季終盤までリーグ優勝に手をかけていたノースロンドンの雄アーセナルであった。
今回は、ライスのざっくりとした特徴や4局面別に発揮される強み・弱みを分析しながら、現状のパフォーマンス、さらには今後アーセナルで託されるであろうタスクについて占ってみたい。またそれに付随し、欧州トップクラブの中で徐々に採用が広まっているダブルボランチシステムについても軽く触れてみよう。
ラインを押し上げるチームのアンカーに求められる重要なタスク
ライスの特徴として挙げられるのは、長いストライドを活かした7、8mでの加速力やコンタクトスキル、そして何より守備の戦術理解度の高さである。これらは特にボール非保持の局面で発揮されることが多く、ライスが安定して所属チームでスタメンに定着できている要因である守備に粗がなく、非常に計算が立つこととも大いに関係している。
前所属のウェストハムや今夏加入したアーセナルでは主に[4-1-4-1]のアンカーとして、イングランド代表では試合によってダブルボランチの一角あるいはアンカーとして起用されることが多いが、特筆すべきは[4-1-4-1]ブロックを形成した際の守備の理解度の高さだ。
アーセナルのような、可能ならば積極的にラインを上げてハイプレスへ移行しようとするチームにおいては、2列目からラインの横の繋がりを断ち切って相手を捕まえに出ていく選手が現れる。こうした場合にすかさず列を上げ、スペースを埋めて再度2列目の4枚の関係性を回復するのはアンカーの守備の重要なタスクの1つである。
一方で、最終ラインの押し上げが間に合わない中で不用意にポジションを上げれば、間延びしたライン間に縦パスを差し込まれる危険性も上がる。ゆえに、このポジション移動は陣形の間延び具合やファーストDFの厳しさ次第となり、難しい判断を迫られる。
このタスクを高精度で遂行できる点がライスの魅力であり、特にファーストDFが前がかっている時に勇気を持ってラインをきっちり上げ切ることができる点は、似たタスクを課せられた他の選手と比較しても圧倒している部分である。……
Profile
高口 英成
2002年生まれ。東京大学工学部所属。東京大学ア式蹴球部で2年テクニカルスタッフとして活動したのち、エリース東京のFCのテクニカルコーチに就任。ア式4年目はヘッドコーチも兼任していた。