YBCルヴァンカップ準々決勝・札幌戦2ndレグ。苦しむ横浜F・マリノスを1得点1アシストの活躍で次のステージに導いたのは、水沼宏太だった。好調だったチームが、なぜ苦しんでいるのか? どこに活路があるのか? 近年のアタッキング・フットボールを支え続ける33歳の言葉から読み解いていきたい。
試合終了のホイッスルが鳴ると同時に、ピッチのそこかしこで選手が倒れ込む。まさに死力を尽くした戦いだった。水沼宏太もチームメイトに助け起こされるまで、自ら立ち上がることができなかった。
「もう僕らには失うものはなくて、公式戦でもずっと負けていたし、一緒に戦っている皆さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、とにかくホームで借りを返せるチャンスが今日はあったので、もう精一杯やりました……はい」
ヒーローインタビューに呼ばれた水沼は、フル出場直後の荒い息遣いのまま、思いの丈を言葉にして絞り出した。横浜F・マリノスのゴール裏に掲げられた「誰かじゃない 己がヒーローになれ」という横断幕のメッセージをピッチ上で体現したベテランは、1得点1アシストでチームをYBCルヴァンカップの準決勝へと導いた。
アウェイでのルヴァンカップ準々決勝1stレグは、北海道コンサドーレ札幌に2-3で敗れた。だが、1点のビハインドに加え、公式戦3連敗という重圧とともにホームへ戻って迎えた10日の2ndレグは3-0で完勝。マリノスは逆転で2戦合計スコアを5-3として次のラウンドへと駒を進めた。
水沼は2試合連続となる1得点1アシストでチームをけん引し、改めてその存在価値を証明した。試合終了後、F・マリノスのファン・サポーターが最初に歌った個人チャントが水沼のものだったのも自然な流れだったと言えよう。
「貫く」なのか?「固執」なのか?
思えばチームは8月から負のスパイラルに呑まれかけていた。8月6日のJ1第22節・浦和レッズ戦で正守護神の一森純が負傷し、同19日のJ1第24節・FC東京戦では畠中槙之輔とヤン・マテウスも負傷交代。畠中に至っては今季中の復帰が不可能な重傷を負ってしまった。
そして、同26日のJ1第25節では横浜FCを相手に4失点を喫し、1-4で「横浜ダービー」を落とすことに。この試合直前には長期離脱から復帰したばかりだった角田涼太朗が再離脱を強いられており、相次ぐ負傷者に加えて下位相手の敗戦とショッキングな出来事が続いた。
その横浜FC戦後、他のメディアの記事でエドゥアルドの「我々は攻撃が特徴のチームなので、毎試合『誰かが試合を決めてくれるんじゃないか』という気持ちでプレーしていますけど、そこが少しよくない部分ではないかと感じています」というコメントを引用した。この発言は、当時のチーム状態を端的に表していたのではないかと、今になって改めて思う。……
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舩木 渉
1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。