サガン鳥栖、FC東京、そしてヴィッセル神戸とJ1の格上を3連破し、天皇杯でクラブ史上初の準決勝進出を果たしたロアッソ熊本。一方、昨季は昇格1年目で4位に躍進したJ2では、第33節(全42節)を終えて22チーム中20位(8勝10分15敗・39得点43失点)と残留争いを強いられている。2020年から指揮を執る大木武監督の下で4年目、今季も激動のシーズンを送るチームの内情を、おなじみの番記者、井芹貴志氏に伝えてもらった。
大迫勇也、武藤嘉紀、山口蛍、酒井高徳……。対戦相手のメンバー表には錚々たる名前が並ぶ。11年ぶりに臨んだラウンド16の壁を初めて突破した熊本が準々決勝(8月30日)でホームに迎えたのは、J1で首位争いを繰り広げているヴィッセル神戸。クラブ予算で10倍弱、チーム人件費だと10数倍もの開きがある国内屈指のビッグクラブだ。前回大会でJ2の同志、ヴァンフォーレ甲府が優勝を果たしているノックアウト方式の大会とはいえ、そんな相手に経営規模の小さなJ2の地方クラブがどこまで戦えるのか――。というのが、大方の見方だった。
ところが蓋を開けてみれば、上位カテゴリーのチーム相手に、自分たちが積み上げてきたスタイルで真っ向からぶつかる堂々の戦いぶり。球際の強度という点では1対1の局面でやや押される場面もあったが、巧みなパスワークで神戸のプレッシャーを剥がしてはコンビネーションで守備ブロックを破る攻撃を見せ、古巣戦となったラウンド16のFC東京戦でも先制点を挙げていた平川怜のゴールでリードを奪う。終盤に失点して延長を戦うことになったものの、負傷退場で2人を欠く数的不利な状況になりながら逆転のゴールは許さず、迎えたPK戦はGK田代琉我の活躍もあって競り勝った。
頂点までは越えなければならない山がまだ2つ残っているが、3回戦でサガン鳥栖、ラウンド16でFC東京、そして準々決勝でヴィッセル神戸と、立て続けにJ1勢を倒してのベスト4進出は、間違いなくクラブ史上に残る偉業と言っていい。
一方、そんな天皇杯での快進撃とは裏腹に、明治安田生命J2リーグでは後期に入って12戦勝ちなし(4分8敗)。第33節を終えて降格圏の21位ツエーゲン金沢とわずか勝ち点差2の20位という窮地に立たされている。「J1クラブには勝てるのに、なぜJ2で結果が出ないのか」と不思議に思われても無理はない。
短期決戦での自信とリーグ戦での課題
考え得る理由はいくつかある。……
Profile
井芹 貴志
1971年、熊本県生まれ。大学卒業後、地元タウン誌の編集に携わったのち、2005年よりフリーとなり、同年発足したロアッソ熊本(当時はロッソ熊本)の取材を開始。以降、継続的にチームを取材し、専門誌・紙およびwebメディアに寄稿。2017年、母校でもある熊本県立大津高校サッカー部の歴史や総監督を務める平岡和徳氏の指導哲学をまとめた『凡事徹底〜九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由』(内外出版社)を出版。