今シーズンから元ヴィッセル神戸のトルステン・フィンク監督が率いるシントトロイデン。新たに伊藤涼太郎、小川諒也、山本理仁、藤田譲瑠チマ、鈴木彩艶が加わっている。
攻撃的なスタイルに変貌
サッカーメディア『One Football』では「フィンクボール」と題してシントトロイデンの変革を取り上げている。昨季まで2シーズン率いたベルント・ホラーバッハのチームは「リーグで最も守備的なチーム」と国内メディアから評されており、現地サポーターの評判も芳しくなかったが、フィンクに代わり、エネルギッシュな攻撃的なスタイルに変貌した。ホラーバッハ、フィンクともドイツ国籍で、システムも同じ[3-4-2-1]だが、スタイルは真逆だ。
昨季のシントトロイデンの平均パス本数は285.8本で、パス成功率は74.2%と、リーグ全体で15位だった。しかし今季、フィンクが率いるチームは、第4節終了時点で平均パス本数471.7本、パス成功率は84.9%を記録。これはリーグ全体では3位だ。
地元選手の積極的起用
日本企業『DMM』が保有権を持ち、ユニフォームスポンサーに数々の日本企業が並ぶシントトロイデンには日本人選手が多く在籍している。しかし、今季は地元出身選手が多く起用されている。
U-21ベルギー代表に選出されているFWヤルネ・ストゥーケルス、アンカーのMFマティアス・デロルジュは、地元シントトロイデンの出身だ。攻撃の中心を担うストゥーケルスは、昨季はオランダ2部のMVVマーストリヒトで36試合9得点を記録。19歳のデロルジュは、昨季はベルギー2部のリールセでプレー。デロルジュは父が選手生命のすべてを捧げたシントトロイデンのレジェンドであるため、ホームの大王わさびスタイエンスタジアムに集まる地元ファンからの期待の声が大きい。
守備陣は19歳のDFマッテ・スメッツ、21歳のレイン・ファンヘルデンが中心を担う。中盤の22歳のMFスタン・ファンデッセルも含めると、クラブの育成組織の充実ぶりがうかがえる。
上位進出には得点力の向上が鍵
開幕5試合でスタンダール・リエージュ、アンデルレヒト、ヘントなどの強豪との連戦が続く中、2勝1分2敗と上々のスタートを切った。補強したのは日本人選手が中心で、それ以外は目立った補強が見られない中で大きな驚きを与えている。
しかし、ニュルンベルクへ移籍した林大地に代わるFWとして獲得したドイツ人FWファティフ・カヤが開幕5試合で得点がなく、得点力では大きな課題を残している。攻撃陣は両ウイングのストゥーケルスとFWアブバカリ・コイタの突破から多くのチャンスを作っているだけに、得点を重ねるエースの誕生が待ち遠しい。
そして、第5節では統率が取れたハイプレスを得意とするセルクル・ブルッヘ相手に、試合内容、結果ともに完敗したように、厳しいプレスに特徴があるチームにどう対処していくかも大きな課題になる。
日本人同士で同じポジションを争うことも
今季は8人の日本人選手が在籍しているが、レギュラーを確実に確保しているのは右WBで起用される橋岡大樹のみであり、他はポジションを確約しているとは言い難い。そのため、日本人選手同士でポジション争いをすることになりそうだ。
GKはフランスのクラブへの移籍が取り沙汰されていたシュミット・ダニエルが、9月1日の期限までに交渉がまとまらず、2人の日本人GKを保有することになった。A代表の常連であるシュミットが優勢だが、海外初挑戦の鈴木彩艶はプレーに慣れつつ、虎視眈々とレギュラーを狙いたい。
セントラルハーフは、開幕から3試合は伊藤涼太郎が起用されていたが、第4節からの2試合は藤田譲瑠チマが出場。山本理仁は毎試合、途中出場している状況だ。前述のユース出身の若手選手が台頭している現状では、日本人同士で同じポジションを争っているようにも見える。
ベルギー1部は今季から16チーム体制に戻り、優勝プレーオフは2019-20シーズン以来、6位までと出場枠が戻っている。多くの日本人選手にとっては欧州挑戦の登竜門として機能しているが、攻撃的なスタイルや地元選手の積極的な起用など、注目する点は他にも多い。今後は優勝プレーオフ出場権を獲得し、欧州カップ出場権を目指したいところだ。
Photo: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。