注目が集まっているChatGPTを筆頭に近年、私たちの生活に溶け込み始めているAI。情報収集から作業効率化まで幅広く活用範囲を広げている最新技術がフットボールにもたらす新たな可能性を、結城康平氏に占ってもらった。
歴史的なチェスプレイヤーであるガレリ・カスパロフは、IBMが開発したチェス専用コンピューター「ディープ・ブルー」と1997年に対戦し、初めて「コンピューターに敗北した」プロのチェスプレイヤーとなった。当時、ディープ・ブルーは1秒間に2億手を先読みしていた。そして、文字通り「人智を超越した速度」でレベルアップするコンピューターは、人工知能(AI)に進化していく。
チェスと比べると複雑で、大局観が必要だと考えられていたのが囲碁だ。Googleが開発したAlphaGoは自己学習によって囲碁を恐るべき速度で習得し、当時「最強の棋士」として評価されていたイ・セドルを苦しめた。そしてチェス、囲碁だけでなく、将棋の世界でもAIはまったく違った価値観を棋士に与えることになる。ドワンゴが企画した将棋電王戦で、将棋界が用意したトップ棋士ですら苦しめるソフトウェアの進歩は、「人間を超越する」その知能を示した。チェスや碁と同じく、最も名誉のある「名人」を保持していた佐藤天彦名人を倒したことで、AIの力を疑う者はいなくなった。そのように考えれば、AIがどのようにフットボールの世界に影響を与えるのかを考えていくことには、意味があるはずだ。
サッカーのビッグデータ活用が遅れている理由
いわゆるビッグデータの活用において、フットボールが他のスポーツよりも遅れていることは事実だ。その理由としては、ダイナミックなスポーツとしての性質にある。フィールドは広く、選手たちも敵と味方を合計すると22人と多い。試合も90分と長く、途中にタイムアウトも少ない。また、文化的に経験を重視するスポーツであったことも、ビッグデータへの抵抗になった。監督や指導者・スカウトや選手は経験豊富であるほど、そういったデータに頼ることを嫌がる傾向にあるからだ。……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。