8月12日、バルセロナはウスマン・デンベレがパリ・サンジェルマンに移籍することを発表した。2017年夏の加入以来、相次ぐケガに悩まされながらも近年ようやく本領を発揮しつつあった天才ドリブラーの退団。シャビ・エルナンデス監督の慰留も虚しく、26歳のフランス代表FWがカンプノウを去った理由を現地スペイン在住の木村浩嗣氏が読む。
ウスマン・デンベレがバルセロナを去りました。1年前に更新した契約書に「5000万ユーロで売却せねばならず、その半分はデンベレの懐に入る」という屈辱的な条項が含まれていた、と知った時は驚きましたが、ああいう出て行き方をしたことには驚きはなかった(最終的にバルセロナ3500万、デンベレ1500万で決着したようです。6年前に1億3500万で買った選手ですが)。
シャビ・エルナンデスは「個人的には大変失望している」と言いました。「なぜ出て行くんだ? と聞いても答えなかった」。シャビはデンベレの庇護者で、「あのポジションでは世界最高の選手だ」が口癖でした。私も同感です。最高かどうかはわからないけど、1、2を争う選手であることは間違いない。さらに「世界ナンバー1になる可能性が見える」とも言っています。
しかし、今回の別れはデンベレが素晴らしい選手かどうかには関係がないのです。シャビは“素晴らしい選手だから残ってほしい”と思っていた。それは監督なら当然の「願望」に過ぎなかった。デンベレは別のことを考えていた。
わかるんですよ、シャビの発想は。“我われは彼をいつも擁護してきた。50%ちょっとの試合しか出場できず、40%は負傷中だったけど、我慢して高給を払い続けた。1年半前、契約更新を拒否して、『更新しないならプレーさせない』とフロントが強い姿勢に出た時もプレーさせたし、カンプノウでブーイングされた時も『彼は素晴らしいプロフェッショナルだ』と矢面に立ったのは俺だ。そんな俺とバルセロナには恩があるはず”と考えるのが普通で、“本人がここでCLを獲りたいと言ったばかりだし、出て行くことはない”という結論に至るのが普通です。
熱を感じなかった大舞台での2つのプレー
でも、私はデンベレが恩を感じるタイプの選手かどうかには疑問を抱いていました。練習に遅刻したり無断欠席したりクラブの許可なくパリやモロッコに旅行したりということは聞いてましたが、私のデンベレ観を決定づけたのはそうしたトラブルではなく、2019年5月のCLリバプール戦での1つのプレーと振る舞いでした。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。