首位争いをするヴィッセル神戸を牽引し、7月の月間MVPにも選出された大迫勇也。自身も第24節終了時点で18ゴールと得点ランキングのトップに立っている。キャリアハイの19ゴール(2013シーズン/鹿島アントラーズ)の更新も目前だ。33歳のベテランFWはなぜ今季、ここまで爆発しているのか――西部謙司氏が分析する。
ストライカーは「速い」か「強い」、たいていどちらかの武器を持っている。
スピード系の代表格はキリアン・ムバッペ、リオネル・メッシなど。その速さを活かすためにサイドでウイングとして起用されることもあるタイプだ。ペナルティエリア内でのポジショニングの上手さでゴールを量産する異能型も、短い距離での俊敏性に優れているので大きく分ければスピード系だ。ロマーリオ、ゲルト・ミュラー、ガリー・リネカーなど往年の名ストライカーはこのタイプが少なくない。
パワー系は長身で空中戦に強く、ゴール前でクロスボールを叩いて得点に変換するハンマー。エディン・ジェコ、ロメル・ルカクなどが典型だ。ポストプレーヤーとしての機能性が高いタイプでもある。ロベルト・レバンドフスキもこのカテゴリーだろう。
スピード系でありパワー系でもあるストライカーとしては、アーリング・ホーランドやクリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、ルイス・スアレスが挙げられる。
「速い」でもなく「強い」でもなく「巧い」
大迫勇也はスピード系ではない。遅くはないが飛び抜けて速くもない。日本代表のCFでいえば、古橋亨梧や前田大然は典型的なスピード系だが、大迫は明らかにこのタイプではない。ではパワー系かというとこちらも微妙かもしれない。日本人としては長身で、ポストプレーヤーとして抜群の機能性を持つけれども、それが身体能力のおかげかというとそうでもないからだ。上田綺世の方がパワー系のイメージに近い。
大迫は万能型とも言われるが、スピードとパワーを両方持っているのではなく、むしろどちらも武器になっていない。「速い」でも「強い」でもなく、「巧い」ストライカーというやや特殊な部類なのだと思う。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。