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地元ファンの健全な試合観戦を守るために。リバプールがデジタルチケット移行を進める理由

2023.08.16

ついに2023-24シーズンが幕を開けたプレミアリーグで進められているデジタルチケットへの移行。その中でもリバプールが意欲的に取り組む背景と、「Operations Team of the Year」を受賞するに至った成果を現地のリバプール大学大学院でサッカーのマーケティングを学ぶ重田良輔氏に解説してもらう。

プレミアリーグが導入を推進する「NFCパス」とは?

 6月下旬、イギリスでは年間のフットボールスタジアムのパフォーマンスを評価する「The recent Stadium Events and Hospitality Awards 2023」が発表された。数々の賞が新設スタジアムを所有するトッテナム・ホットスパー、2020-23シーズンからサウジアラビアの政府系ファンドPIFがオーナーを務め、セント・ジェームズ・パークのあらゆる改善に取り組んでいるニューカッスル・ユナイテッドに独占される中、リバプールが「Operations Team of the Year」を受賞した。この賞は潤滑に運営されるマッチデイをファンに提供するスタジアムの舞台裏チームを評価するものであり、受賞の背景にはコロナ禍以降のプレミアリーグ内でも意欲的に取り組んできたNFCパスへの移行があると評されている。

 世界を揺るがした新型コロナウィルスによるパンデミックは、例外になく世界最高峰のヨーロッパサッカーにも多大なる影響を与えた。ヨーロッパ各国のロックダウン政策が明け、社会が活気を取り戻そうとする中、英プレミアリーグを含め欧州の多くのリーグが19-20シーズンの終盤に引き続き無観客のまま20-21シーズンをスタートさせた。

 その間、プレミアリーグ機構は、紙チケットの手渡しによるウィルス蔓延を防ぐための「デジタル・ファースト」を目指すべきという規則をレギュレーションに追加。コロナ禍以前からバーコードを用いたデジタルチケットはいくつかのクラブで利用されていたが、リバプールを含め、アーセナル、マンチェスター・シティ、ブライトンなどのクラブは21-22シーズンから率先的により先進的なNFCパスへの移行を進めた。

 NFCとはNear field Communicationの略称で、現在各国で主流となっているスマートフォンの「タッチレス決済」に用いられているのと同じシステムである。使い方は至ってシンプル。クラブのシーズンチケットホルダー、及びメンバーは、公式ホームページから購入したチケットをApple Wallet、もしくはGoogle Payに追加し、スタジアムゲート付近のリーダーにタッチするのみである。そんなNFCパスのメリットとして挙げられるのは、

・非接触
・スムーズ
・カスタマーデータの収集
・セカンドマーケットでの不正売買の撲滅(90%のシャットアウトが見込まれる)
・環境保全

 の5つである。

 客観的に見ると良いこと尽くめで、どのクラブもこのシステムを利用すべきだと考えられる。しかし現実はそううまく進んでおらず、問題は山積みなのが現状だ。

デジタルチケット移行が進まない理由

……

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プレミアリーグリバプール

Profile

重田 良輔

1991年生まれ。兵庫県出身。商社を7年間勤めたのち、2022年9月よりリバプール大学大学院Football Industries MBA(FIMBA)を受講。50試合以上の現地観戦とFIMBAでの勉学からなるイングリッシュフットボールカルチャーの理解に基づき、フットボールクラブのブランディング、マーケティングについてフォーカスします。リバプールファン。ホームスタジアムまでは徒歩で行くことをおすすめします。

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