昨シーズンいっぱいでノッティンガム・フォレストを退団した元イングランド代表MFジェシー・リンガード(30歳)の新天地に注目が集まっている。
わずか1年でノッティンガムを退団
マンチェスター・ユナイテッドの下部組織で育ったリンガードは、同クラブでトップチームデビューを果たすと、細かい足技とゴールの嗅覚を併せ持つ攻撃的MFとして台頭した。同クラブでは公式戦200試合以上に出場してFAカップやUEFAヨーロッパリーグ制覇などに貢献。しかし完全にレギュラーを確保することは難しく、さらにビッグクラブの重圧にも苦しんでお酒に手を出すようになり、サッカーを楽しめなくなったという。
そこで2020-21シーズンの後半にはウェストハムにローン移籍。リーグ戦16試合で9ゴールという大活躍で輝きを取り戻したのだが、その後ユナイテッドに戻ると出番は限られた。さらに再びローン移籍を希望するも、ユナイテッドの首脳陣に止められて苛立ちを募らせ、とうとう退団を決意することに。昨夏、7歳から過ごしてきたユナイテッドに別れを告げ、フリートランスファーでノッティンガム・フォレストに移籍した。
しかし、新天地ではカップ戦でゴールを決める場面もあったが、リーグ戦では得点もアシストもマークできずにわずか1年で放出され、今は新しいクラブを探している。
パーソナルトレーニングでコンディションを維持する日々を送っているが、7月には今話題のアメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)への移籍も取り沙汰された。旅行でアメリカを訪れていたリンガードは、体を動かすためインテル・マイアミの施設を使わせてもらっていた。アルゼンチン代表FWリオネル・メッシが加入したことで注目を集める同クラブは、元ユナイテッドのデイビッド・ベッカムが共同オーナーを務めるため、リンガードへの興味が報じられた。さらにDCユナイテッドに移籍するという噂も出た。というのも、現在DCユナイテッドを率いているのは元イングランド代表FWウェイン・ルーニーなのだ。
「リンガードの噂? どこから出た話か分からないが、彼には興味を持っていない」とルーニーはユナイテッド時代の同僚について6月下旬に言い放っていたが、どこから噂が湧いたのか心当たりがあったはずだ。
MLS独自の「ディスカバリー・リスト」
MLSには移籍に関する独自のルールがいくつもある。その1つが「ディスカバリー・プロセス」だ。これはMLSのクラブが国外選手を獲得する場合に用いる手段で、海外から選手を連れてくる場合は7名まで登録が許された「ディスカバリー・リスト」にその選手を載せる。MLSのクラブ同士による競合を避けるためだという。実は、DCユナイテッドはこのリストにリンガードを加えていたのである。だから移籍の噂が出るのも当然なのだ。
しかし、ルーニーが「興味ない」と断言したのも決して嘘ではないようだ。実は、ルーニーは獲得する意思がないのにリンガードをリストに加えていたのである。先日、ルーニーは英紙『The Times』で真相を明かした。
「例えばアーリング・ホーランドだ」とルーニーは移籍システムについて説明した。「我われはホーランドをディスカバリー・リストに加えることができる。もし彼がMLSに来ることを決意し、DCユナイテッドではなく他のクラブを選んだ場合、そのクラブは私たちにもお金を払わないといけない。なぜなら、我われがホーランドを“ディスカバー(発見)”したのだからね。クレイジーだろ!」
「でも、このシステムを利用することができるんだ。昨年、リンガードがフォレストに入団した時、我われは彼をディスカバリー・リストに載せた。1年でフォレストを退団してアメリカに来る可能性だってあると思ったのさ。その時には我われが彼を獲得することもできるし、もし他のクラブへ行けば我われにもお金が入るんだ」
そんな様々な思惑が渦巻いて移籍の噂が出回るのだが、いずれにせよリンガードはまだ新天地を見つけることができていない。果たしてリンガードは「クレイジー」な移籍システムを利用できるのか、それともイングランド国内に残るのか。ジェシー・リンガードの動向に注目したい。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。