※『フットボリスタ第97号』より掲載。
新時代の監督に求められる資質とは何だろうか?
フットボールの世界において、「名選手が名監督にならない」ことも珍しくはない。一流の選手キャリアを持たないアーセン・ベンゲルやジョゼ・モウリーニョが先人として切り開いた道を、今や多くの“ラップトップトレーナー”たちが舗装してきた。
その一方で、選手時代の経験が監督として役立つことも事実だ。2013 年にアナ・グランデルが発表した研究によれば、選手経験のある指導者は複雑な認知タスクを解決する能力のテストで、選手経験のない指導者よりも優れた成績を残したという。必ずしもすべての意思決定・認知的なスキルに差があったわけではないが、選手経験が監督としての武器になることも事実だ。選手としても指揮官としてもバルセロナの歴史を作ったペップ・グアルディオラはその最たる例で、彼のチームでプレーした選手たちも次々に監督として台頭している。バルセロナのシャビ・エルナンデス、バーンリーのバンサン・コンパニ、レバークーゼンのシャビ・アロンソ……。彼らのように選手時代から最先端のフットボールを学び、指導者としても成功している元選手は決して少なくない。経歴で新時代の監督をカテゴライズするのは、1つの視点に過ぎないと言えるだろう。
「変革的リーダーシップ」の6つの手法
リーダーシップの学問から監督の未来を考えることも有意義だ。
メンバーや個人の判断に任せる自由放任的リーダーシップ(Laissez-faire leadership)や、チームに直接指示を出しつつ特典や報酬でモチベーションを高める取引型リーダーシップ(Transactional leadership)と比べると、フットボールの監督により求められるのが変革的リーダーシップ(Transformational Leadership )だ。これはアメリカを中心に1980年代に注目を集めたリーダーシップでもある。企業を発展させるには、社員の学習を促進するリーダーが必要だと考えたのだ。バーンズ(1978)はこれを、次のように定義した。
「リーダーとフォロワーが相互にプロセスに積極的に参加し、互いのモチベーションと倫理性を高めるプロセス」
このリーダーシップは、6つの手法が鍵になっている。
①「モチベーションの鼓舞」
②「個人への配慮」
③「知的な刺激」
④「ハイパフォーマンスへの期待」
⑤「適切なロールモデルの設定」
⑥「グループにおける目標の醸成」……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。