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悲願のJ2復帰へ。混戦J3で健闘光るカターレ富山の原動力は、生え抜き監督と選手たちの揺るぎない覚悟

2023.07.31

J3のカターレ富山が今季の前半戦をJ2昇格圏の2位で折り返した。地元出身、生え抜きの小田切道治監督の思い切った選手起用に対し、クラブへの愛着を深める選手たちがしっかりと応える好循環が生まれるなど、好調を維持。「今年こそは」の思いが日に日に高まっているチームの現在地を、カターレ富山番の記者、赤壁逸朗がレポートする。

前体制のやり方を微調整し、安定感が増して昇格圏へ

 今季のJ3は傑出したクラブが見当たらず混戦状態が続いている。第5節から第12節まで節ごとに首位が入れ替わったのは象徴的だ。そんな中で5月初めの第12節から約2カ月後の16節まで小差ながらトップをキープしたのがカターレ富山だった。

 地元出身でクラブ生え抜きの小田切道治監督のもと、堅い守りと攻撃陣の高い決定力でしぶとく勝点を重ねて前半戦を2位で折り返し、悲願のJ2復帰へ歩を進めている。

 開幕前の予想で富山を上位に推す者は少なかったのではないか。毎年のように昇格争いに絡むものの、あとひと押しを欠くシーズンが続き21年は4位、22年も6位だった。昨年9月から指揮を執る小田切監督はまだ経験が浅い。戦力の入れ替えも小規模だった。昨季3位の鹿児島や超J3のクラブ規模を誇る松本や今治、前年J2の琉球と岩手などのほうを有力視するのは当然だろう。

 だが、ふたを開けると、富山はそれらのクラブや、日本代表歴があるビッグネームが率いる注目クラブと互角以上に戦った。6月7日の天皇杯2回戦では京都を2-2(PK10-9)で撃破。J1クラブに勝ったのはクラブ史上初めてのことで、充実したシーズンを過ごしている。

石﨑信弘前監督の意思を受け継いだ小田切道治監督(中央)(Photo: Itsuro Akakabe)

 スタイルは堅守速攻型で、プレー強度の高さが持ち味。石﨑信弘前監督が植え付けたハードワークや攻守の切り替え、球際に対する高い意識をうまく受け継いでいる。特長だったハイプレスを継承し、敵陣でのボール奪取から繰り出すショートカウンターを今季も得点源にしている。ただ、前掛かりにプレスをかけ続ける石﨑流の特殊な戦法は見直した。プレスがはまらなかった時の守り方を細かく規定し、安定感を高めている。

 攻撃も昨季と同様に「裏を狙ってシンプルに素早く」が基本だが、ここでも新たな要素を加え、ポゼッションによる崩しの構築にも力を注いでいる。[4-2-3-1]の両SBにテクニックのある攻撃的MFの安光将作や大山武蔵を起用するケースが増え、第3節・北九州戦や第14節・岩手戦では彼らがボール保持に寄与して主導権を握り勝利を収めている。

 そして、好成績に直結しているのが攻撃陣の高い決定力だ。前半戦の19試合を終えた時点でシュート数はリーグ18位タイの145本だが、得点数は同2位の32で決定率は同1位の22.1%。次いで高い長野が17.3%で、ずば抜けている。……

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カターレ富山

Profile

赤壁 逸朗

1971年生まれ。富山県射水市在住。北日本新聞社勤務を経て2008年からフリーライター。カターレ富山をはじめ地元のスポーツを広く取材している。

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