「バルサでプレーしたい」「それは子供の頃からずっと夢見ていたことなんだ」――衝撃の発言が移籍専門記者のファブリツィオ・ロマーノによって報じられたのは、7月18日のこと。貸し出し先のチェルシーから戻ったジョアン・フェリックスだが、背番号7のはく奪に戦術練習から外される冷遇も受けて、ディエゴ・シメオネ監督率いるアトレティコ・マドリーからの退団が濃厚視されている。4年前にベンフィカから1億2600万ユーロで獲得された23歳は、なぜ才能を開花させられないのか。その理由をスペイン在住の木村浩嗣氏に探ってもらった。
戦力外ではない「マイナス」。誰もが幸せになるには…
お互い顔を見たくない、というのがジョアン・フェリックスとディエゴ・シメオネの真実である。アトレティコ・マドリーでの3季半(チェルシーへのレンタル期間を除く)、良い時もあったが悪い時の方が長く、2人は「合わない」という結論に達した。これがラストアンサーであり、和解の可能性はゼロだ。
答えは23年1月にチェルシーへ送り出した時点で出ていた。フェリックスがイングランドで活躍しレンタル終了時に1億ユーロで買い取ってくれれば、お互いのためにベストだった。
だが、フェリックスは前々監督グレアム・ポッターも、前監督フランク・ランパードも、新監督マウリシオ・ポチェッティーノも説得できなかった。一方、その間にシメオネはバルセロナを猛追するところまで立て直し、フェリックスがいない方がチームは機能することを証明した。フェリックス対シメオネの戦いの軍配は誰の目にもはっきり、シメオネへ上がった。
レンタルに出されている間にフェリックスがつけていた背番号7はかつての所持者アントワーヌ・グリーズマンに返され、なくなっていた(フェリックスはバルセロナへ出されたグリーズマンの後継者として獲得されたのである)。“出て行ってほしい”という意思表示としてこれ以上、明確なものはあろうか。
戦力外ではない。戦力外とはゼロであり、残留してもプラスにならないだけだが、フェリックスの存在はマイナスになる。チームの雰囲気を悪くする。戦力外以上のクラブにいて欲しくない存在なのだ。
折しもクラブは財政難に喘いでいて、誰かを売らないと補強できない状況にある。フェリックスの年俸枠が空き、現金収入もあってシメオネが希望する攻撃的セントラルMF、コケの控えが獲れるかもしれない。代えの利かない貴重なドリブラー、ヤニック・カラスコを売らなくても済むかもしれない。フェリックスにとってもベンチで腐っているわけにはいかない。来夏にはEURO2024があるのだ。
というわけで、誰もが幸せになれる移籍が実現することを私も1人のサッカーファンとして祈らずにいられない。
悪いのはシメオネ?フェリックス?そんな議論は時間のムダ
フェリックスが成功しなかったのは、彼の性格のせいだろうか? 確かに、ビブスを叩きつけるのはプロ意識に欠ける(昨季CL第4節クラブ・ブルージュ戦)。しかし、その前に30分間以上もウォーミングアップさせる方もさせる方である。若い選手のお行儀が悪いのは当たり前。むしろ怒らない、ファイトのなさの方が心配になる。
監督経験のある人ならわかるだろうが、ビブスを投げつけたり、水のボトルを蹴ったり、言い合いになったり、つかみ合いになったり(は私の場合、相手が子供だったのでなかったが)は日常茶飯事である。そういう衝突に時に厳罰で応じ、時に優しく説得してうまく回していくのが監督の仕事なのである。
メディアはそういう現場を知らないから神経質に書き立てるが、フェリックス程度の生意気な若造はどこにでもいるし、むしろ生意気なのが当たり前だし、シメオネもそういった若造を百人くらい見てきただろうし、手懐けてもきただろう。
問題はフェリックスではなく、2人の相性の悪さなのだろう。性格も合わないし、戦術的にも合わない。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。