7月23日、国立競技場で横浜F・マリノスとマンチェスター・シティの兄弟クラブ対決が実現。計8ゴールが飛び交う乱打戦に満員6万1618人のサッカーファンが酔いしれたが、現地取材した西部謙司氏が抱いているのは複雑な感情だった。
実質的に「世界最強」と名乗っても異論はないであろうマンチェスター・シティに対して、昨季J1王者の横浜F・マリノスは勇敢にプレーした。ほぼ同じスタイルの「最強」に2点をリードしたが、最終的には3-5。いろいろと見応えのあるフレンドリーマッチだったが、そこには3つの感情が交錯していた。
横浜FMが示したクオリティの高さ
シティはそれなりに本気だった。ペップ・グアルディオラ監督は「良いテストになった。明らかに準備不足ではあったが負傷者を出さなかったのが何より」と試合後に語っている。このコメントから本気度は見えないが、手を抜いていないことは試合を見ればわかる。
準備はできていない。だからシーズン中の横浜FMとはコンディションが違う。にもかかわらずシティは彼らのスタイルを変えなかった。高温と湿度、長旅に調整不足という状況からして、筆者はシティのハイプレスを予想していなかったのだが、戦術的には通常営業だった。結果として、強度不足のプレスは横浜FMのカウンターを許し、26分間に2点を献上している。この試合に勝つことだけを目的にするなら疑問だが、ペップは新シーズンへのスタートにあたって何も妥協していなかった。
偽CBのジョン・ストーンズはボランチに留まらず、広範囲に縦移動を繰り返す。そして40分に1点を決めた。腰や膝に手をやって肩で息をしていたが、ストーンズにいささかの妥協もなく、結果的に疲弊していたのはチームの姿と重なる。
43分にはGK一森純が相手を引きつけすぎてボールを奪われるミスから2-2となったが、カイル・ウォーカーをぶち抜いたエウベルの速さ、マヌエル・アカンジを手玉にとってシュートし、GKが弾いたところを再びシュートして先制したアンデルソン・ロペスの馬力と技術。追加点をもたらした永戸勝也から松原健への、SBからSBのロング・アーリークロス……横浜FMは随所にクオリティの高さを示していた。
絶対に埋まらないシティとの差
「いつもと違う場所では、新しい発見がある」(グアルディオラ監督)……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。